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VUCA時代の企業経営

(14) VUCA時代に欠かせない思考法とは

気がつくとあたりの風景が一変していた、という経験をしたことはあるでしょうか。もし数年ぶりにカリフォルニア都市部を訪れた人がいたら、まず驚くのがテスラを始めとするEVのめざましい普及だと思います。直近ではサンフランシスコ市を取り巻くベイエリアでEVとPHVが新車販売の50%を占めたことが話題になっています。この傾向がさらに進めば、エンジン自動車を中心に回ってきた自動車産業が根本から変わることになりそうです。サプライヤーからメーカー、ディーラーやガソリンスタンドや補修工場や保険まで、今までとは違ったビジネスが生まれます。 

同じようなことがAIのようなテクノロジーについても言えると思います。まだまだ先だと思っていても気がついたら周りが変わっている。その波を先取りして自ら変わっていくのか、それともいつになっても変わらない人たちや場所を見つけて安心しようとするのか、それが生き残る組織とそうでない組織を分けるのではないでしょうか。 

変化が小規模でほとんどの変数が既知である場合、ビジネスは計画と実行の繰り返しになります。問題が起こるとしたら、計画の間違いか実行のミスのどちらかになります。右肩上がりの成長フェーズはそれに当たります。ところがEV化や脱炭素のような大きな変化が発生すると、計画と実行の前提となる「知識」を作り直すことが必要になります。今回はそのための思考方法をご紹介します。 

これはアブダクション abduction と言われるもので、日本語では仮説型推論とも呼ばれます。定理から結論を導きだす演繹法と観察から法則を見出す帰納法に加えて、観察から仮説を作り出す方法です。論理学では昔から知られていますが、最近はビジネスの分野でも注目されています。10年ほど前にアメリカで「リーン・スタートアップ」という本が出て、スタートアップのバイブルと言われました。その本で紹介されているアプローチの基本となるものです。 

スタートアップはざっくりとしたビジョンは持っているものの、顧客は誰か、そのニーズは何か、どんなプロダクトが受け入れられるか、などについては全くの無知です。思い込みだけで作ったプロダクトの売上を経営目標にすると、ビジネスは全くの博打になります。リーン・スタートアップでは、新しい知識の習得度合を経営目標にします。そのための道具立てが MVP minimal viable product (顧客に提供可能な最小限度の製品)とアブダクションです。まず限られた観察から仮説を作り(アブダクション)、それを検証することに特化したものがMVPです。それを顧客に使ってもらい、新しい観察から新しい仮説を作ります(再度アブダクション)。 

アブダクションの意義は、知識は絶対なものではなく検証された仮説に過ぎないということです。知識=仮説はいつでも誰によってもアップデートされるオープンなものです。ビジネスに当てはめれば、今作っている製品や行われている業務プロセスもある時点での知識=仮説に基づいているはずで、その仮説の妥当性は絶えず吟味が必要です。

こうした考え方はアメリカでは「サイエンスプロジェクト」を通じて小学校のうちから教えられます。日本の自由研究はどちらかというと、子供らしい身近な題材を取り上げて科学への興味を持たせることが狙いのように思えますが、サイエンスプロジェクトは仮説検証の方法論を習得することに主眼があるようです。 

日本でも2022年から高校の教科に「探求」が追加され、自ら問題発見と解決を試みる学習が始まっています。同時にコンピューターの仕組みやデータ処理を学ぶ「情報」科目が追加されています。国を挙げて国民の変化対応力をつけようとしているのが分かります。そうした新しい常識を持った若者が社会に参加するのは時間の問題です。受け入れる側の企業もアップデートが必要ではないでしょうか。