(16) プライベートエクイティ(PE)に学ぶ経営改革
PEとは投資家から出資を募り、主に非上場(プライベート)企業に出資して経営改善を行った後に売却益を得ることを目的にするファンドのことです。スタートアップにマイノリティ出資するベンチャーキャピタル(VC)と異なり、すでに成熟した企業の期間限定オーナーとして事業の立て直しを舵取りします。PEはアメリカでは80年代からよく知られるようになり、金融危機を乗り越えて大型化・グローバル化が進んでいます。今ではPEが保有する企業で働く従業員はアメリカで1千万人を超えるとも言われています。
日本でも大企業の事業再編や再生にPEが参加する場合があります。よくあるのがノンコア事業をPEに売却して、それを原資にコア事業に投資するケースです。ノンコアとされてPEに売却された事業が競争力をつけて上場すれば、Win-Winと言えるでしょう。最近では半導体製造装置を作る日立国際が2017年に日立製作所から米系PEのKKRに売却された後、2023年10月にKOKUSAIとして再上場を果たした例があります。
日本ではハゲタカファンドのイメージが強いPEですが、アメリカでは企業再生・オペレーション改善のノウハウが評価される場合もあります。最近では中小企業の経営効率化を専門にするPEも現れています。また年金機構や投資信託などの機関投資家の関心がCSRやESGなどに向かうにつれて、その出資を受けるPEもそうした点に配慮するようになっているようです。
一つアメリカでの事例を紹介します。KKRが2015年に買収したあるガレージドアメーカー(社員数800人)では、カイゼンの手法を使って納期短縮や品質改善を行ったそうです。同時に全社員が参加する従業員持ち株制度を作り、社員の動機付けと定着率向上を狙いました。7年後にKKRは収益力が向上したこの会社をある鉄鋼メーカーに売却しました。その結果、持ち株制度に参加した社員は平均で17万5千ドルの株式売却益を受け取ったたそうです。
こうしたPEの成功要因はなんでしょうか。成長への思い切った投資、社員の評価基準など経営管理システムの刷新、アグレッシブなタイムライン、明確な目標設定、従業員の動機付け、テクノロジーの利用促進、ポートフォリオ同士のシナジー、などが当てはまると思います。
これらはPEに限られた経営手法ではありません。日本企業でも成長を続ける会社やグローバルな競争に勝とうとしている会社の多くがこうした打ち手をとっています。米国でPE保有企業と競合する日系子会社ではこれに対抗できるスピーディな経営が求められるでしょう。日本企業でよく使われる中期経営計画などは変化の速いアメリカで事業の成功に寄与するのか、見直しが必要な場合もあるのではないでしょうか。