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(12) 新しいPMBOK(プロジェクト管理手法)

DXや脱炭素やAI利用など、新しいアイデアを実現するために社内にプロジェクトを立ち上げることがよくあります。どのようなプロジェクトであっても、その進め方には共通のベストプラクティスと言ったものがあり、アメリカを中心として研究が進んでいます。中でももっとも普及しているものとしてPMBOK(Project Management Body of Knowledge、プロジェクト管理知識体系)があります。 

そのPMBOKガイドが2021年に大幅に改定され、話題になりました。VUCA時代になって、従来型手法の限界が見えてきたためではないか、と考えられています。 

従来のプロジェクト管理手法は、ウォーターフォールというモデルに基づいています。プロジェクトの開始(上流)から終了(下流)までをいくつかのフェーズに分け、その中をさらに細分化したプロセスに分けます。各プロセスでは具体的な作業と成果物を定義します。正しい手順に基づいていれば正しい結果が出るという、計画と結果の乖離が比較的少ない環境で有効な手法です。プロジェクトは水の流れのように一方向に進むのが前提です。 

一方でVUCAの時代で主流になったのは、システム開発の分野で普及したアジャイル(敏捷)型です。テクノロジーや環境の変化が激しいシステム開発では、顧客の反応を見ながら実働するシステムを継続的に改良していくような柔軟なやり方が適しています。もちろんこうした考え方はシステム開発だけではなく、製品開発やM&Aなど企業内のさまざまなプロジェクトに適用することができます。 

最新のPMBOKガイドでは、それまであったプロジェクトマネージャーが管理するべき5つのプロセスと10の知識エリアがまるごと削られています。その代わりに12のプリンシプル(行動規範)と8の行動領域が挙げられています。それらから読み取れるのは次のようなプロジェクト管理の性格の大きな変更です。 

■ 計画重視のウォーターフォール型から逐次改善を狙うアジャイル型へ

■ 規則ベースの意思決定から原則ベースの意思決定へ

■ プロジェクト単体の成功から全組織の成功へ

■ タコツボ化した機能専門集団から横連携へ

■ コスト・納期・品質の管理からビジネス価値の管理へ

■ 将来予測型から環境適応型へ

 

将来の予測が困難なVUCA時代におけるベストプラクティスは、原理原則を踏まえた上で実際のアクションは臨機応変に行うことである、と宣言したと言えるでしょう。 

PMBOKガイドで追加されたプリンシプルとは次のようなものです(一部のみ掲載)。 

■ 誠実かつ敬意を持ったスチュワード(善良な請負人)としてプロジェクトを率いる

■ 多様なメンバーからなるチームが協調して働けるような環境を用意する

■ 各種ステークホルダーを効果的に連携する

■ 価値を提供することにフォーカスする

■ システム的思考方法:全体と部分、対立と協調など動的で複雑な相互作用を考慮する

■ 状況に応じて効果的なリーダーシップを発揮する

■ プロジェクトの状況に合わせてとるべきアプローチを柔軟かつ持続的に変更する

 

こうしたアイデアは、言うは易く行うは難しの典型例に見えるかも知れません。具体的に何をしたらいいのかという疑問は状況に応じてプロジェクトマネージャーが考える必要があります。すべてを満足させる必要はなく、もっとも効果のありそうなもの・リスクがありそうなものから優先的に適用します。実行中のプロジェクトの健全性チェックリストとして使ってみることもできるでしょう。 

ところでこれらの変更の理由としてVUCAという時代背景と同時に、ジェネレーションZと言われるような若手世代の台頭による組織文化の変化があると言われています。彼らは高学歴で目的意識が高く、独立心が旺盛でありながら密接なコミュニケーションを好みます。競争意識が高くジョブセキュリティを大切にします。こうした世代はプロジェクトの駒となるよりも組織全体に対する貢献や有能な他者とのコラボレーションを好むようです。新しいプロジェクト管理手法の採用は組織の世代交代を推進するためにも有効かも知れません。 

新世代の育成は経営者の最大のミッションの一つです。前回ご紹介した適応型リーダーシップのコンセプトと一緒にご参考になれば幸いです。