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(17) J-SOXの新制度と現地法人における活用方法

2023年4月に金融庁が内部統制報告制度(J-SOX)の実施基準(ガイドライン)を16年ぶりに更新しました。その4ヶ月後に日本公認会計士協会が内部統制監査基準を更新しました。新しいガイドラインは、2024年4月以降に始まる会計年度から適用されます。このガイドライン更新の北米現地法人への影響や活用方法をご紹介します。

ガイドライン更新の主な理由 

■ 財務報告に係るリスクやその統制方法は企業により異なるが、多くの企業が現行ガイドラインに例示されたアプローチをそのまま利用し、形式的なテストや評価を繰り返し、評価作業が形骸化していた。J-SOXの実効性が疑われている。

■ 企業における市販ソフトウェアパッケージやクラウドシステムの利用が増え、財務報告作成においてもITシステムへの依存度が高くなったが、現行のJ-SOXは企業が社内でシステムを開発し運用する前提で用意されており、最新のITリスクに対応していない。 

主な変更点

変更点は多くありますが、現地法人に影響を与える項目には以下が含まれます。

■ 評価対象とする拠点、事業、プロセスを選定する際に売上等の数値に加えて、事業内容や人員構成等の定性的な要因を考慮する。

■ 各拠点における評価対象は、各拠点の全社的統制のレベルに応じて決定する。

■ 事業責任者への過度の依存や不正リスクを評価に含める。

■ 内部統制に十分な知識を持つ専門家が内部監査を実行する。

これらはまったく新しいコンセプトではありませんが、これまで多くの企業が実行してこなかった項目のため、改定ガイドラインで強調されています。

USJP は過去十数年に渡り、北米現地法人のJ-SOX対応を支援してきました。その経験から次のようなことが言えると考えます。

日本企業現地法人のJ-SOX対応状況

■ J-SOXを過剰なオーバーヘッドと考えている現地法人の経営者は少なくない。内部統制が有効に機能している企業にとっては内部監査的な作業を必要以上に増やす仕組みかもしれない。

■ 効果的なポリシー、高機能なITシステム、合理的な役割分担など高度な内部統制が確立された企業の多くは運営上も無駄が少なく、優秀な現地社員を雇用する能力を持ち、利益を出してる。ただ、このような日系企業は極めて少数派だと考えられる。

■ 日系企業の多くは駐在員の監督、現地ベテラン社員の知見などに依存し、自社では大きな問題は起こらないという希望的観測や性善説にもとづいた体制で事業を運営している。

■ 連結ベースに対して重要性が小さいと考えられている米国法人は、全社的統制に関する質問状に回答を記入し親会社に提出することで親会社のJ-SOX要件を満たしている。

■ 米国事業の相対的売上や重要性が高いとみなされる現地法人は上記に加えてIT統制や業務プロセスに関する統制を評価して、その結果を親会社に報告している。評価方法は面談、資料のレビュー、サンプルのテストなど多岐にわたる。

■ これらの評価作業は米国内の内部監査部門社員、兄弟会社など独立性を持つ他の社員、または外部の会計士や内部統制専門家が行う。内部監査担当者や外部専門家が評価する企業では、毎年少しずつ業務や内部統制が改善されている。専門知識を持たない社員が評価する場合は、業務や統制の合理化が実現することは多くない。

 

新ガイドラインに対応した現地法人の改善機会

J-SOXは日本本社に適用される制度ですから、本社が対応方針を決定し、各事業拠点にインストラクションを送り実行されます。そのため今回のガイドライン改定についても現地での対応方法を変更できない現地法人も多くあります。しかし、ある程度の裁量が与えられている現地法人には以下のアクションをお勧めします。

■ 親会社からの要件が全社的統制に関する質問状への回答のみの場合は、自社にとってどの項目が重要かを考えたうえで、重要な項目に関してはゼロベースで見直しを行い、自社に合わせた実践的な統制方法を導入する。

■ 業務プロセスの評価が必要な場合は、売上ではなく、リスクが高い拠点、事業、プロセスを選択する。エラーや不正の発生しにくい、または発生しても財務報告に大きな影響を与えない拠点やプロセスを除外し、よりリスクの高い対象に置き換えるよう、必要に応じて本社や外部監査人と交渉する。

■ 業務プロセスのサンプルテストに評価者と業務担当者が多くの時間を要している場合は、より効率的な統制方法やテスト方法を導入する。(マニュアルコントロールよりは自動コントロール、発見的コントロールよりは予防的コントロール、日次コントロールよりは月次コントロールなど)

これらの作業を毎年繰り返すことで、内部統制が効率的になるとともに、対象業務の生産性も向上し、社員のスキル向上が望めます。

USJPのJ-SOX関連サービスについてはこちらからご参照ください。