(13) インフレ経済下で生き残る経営戦略とは
コロナ禍によるモノ不足やバラマキ政策により、2022年の米国のインフレ率はそれまでの1-2%から9%まで増加しました。コロナ禍が収束し、多くのエコノミストがインフレ率は2023年に6%前後まで下がると予測しました。ところが自動車や食料品などのモノ不足が解消し、給付金で潤っていた国民が貯金を使い果たすと需給関係が逆転しました。現時点でのエコノミストの2023年のインフレ率予測は3%台です。
将来のことは誰にも分かりませんが、長引くウクライナでの戦争、政府支出の増大、米中冷戦、気候変動による自然災害など、インフレが再発する材料はたくさんあります。
米国では企業による値上げが続いています。話題になりやすい消費者向けビジネスをとってもマクドナルド、スターバックス、コカ・コーラなどは2021年から5−8%の値上げを数回行いました。2022年にはこのような値上げの恩恵で空前の利益を上げる大企業が続出しました。
一方で日本経済は長期におよぶデフレに苦しんできました。昨年末からようやく値上げに踏み切る企業が出てきましたが、値上げはあくまでも例外事象で、企業努力によってコスト減を達成することに経営者の関心が集中しているように思います。その結果、インフレ局面に対する準備が不足している可能性はないでしょうか。
インフレは原材料やサービスのコスト高を起こし、それを価格に反映することが顧客や消費者に受け入れられない場合は収益を圧迫します。米国の優良企業を見ると、値上げをしても顧客を引き止められるようにいろいろな工夫をしていることが分かります。普段から価格ではなく顧客価値や顧客経験を訴求すること、価格上昇と同時に品質やサービスの向上を提供すること、などです。
例えば、アップルが2007年に発売した初代iPhoneは499ドルでした。テレビやパソコンの価格が下がる中、最新モデルのiPhone 14は799ドルになりました。現在499ドル以下で買えるスマートフォンはいくらでもありますが、iPhoneはそのセグメントでは勝負をせず、品質、操作性、ソフトウェアとサービスで差別化しています。また量販店のコストコは安売りで有名ですが、その差別化戦略は高価格・高品質の商品を正規販売ルートより安く売ることで、低価格品による勝負はしていません。こうした企業は価格上昇局面でも顧客を失わない強みを持っていると言えます。
価格以外の差別化要因がないと考えられている企業においても、価格以外の差別化要因を追求することは重要です。顧客の課題解決に直接貢献する製品(ソリューション)作り、サービスとの組み合わせ販売、手厚い顧客サポート、取引のしやすさの向上、利益率の高い顧客セグメントとの関係構築、などを提供することで、規模の経済で優位に立つ競合に勝つ可能性を広げることができるでしょう。