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VUCA時代の企業経営

(15) 日本企業のグローバル成長戦略

まず、日本の上場企業の財務戦略は実際に保守的なのでしょうか?日本には約4000社の上場企業が存在し、これらの企業の平均売上高は約2500億円、平均株主資本は約1500億円となっています。対照的にアメリカでは、約6000社が上場しており、平均売上高は約8000億円、平均株主資本は約700億円です。これは、平均的な日本の上場企業が米国企業の売上の3分の1程度であるにも関わらず、株主資本は2倍以上にも上ることを意味しています。緊急時に備えて資金を蓄えることは重要ですが、このレベルの内部留保は過剰に思えます。

次に、日本の企業がみな保守的であるかどうかについて考えてみましょう。実際には、そうではありません。時価総額ランキングの上位の日本企業の半数程度は、明確な成長戦略を持ち、継続的に新規事業を創出したり、国内外の企業買収を行っているようです。また、企業規模が小さいながらも、ニッチな分野で高いグローバルシェアを確保し、買収や提携によって成長を遂げている企業も存在します。これらの企業の多くは、化学、素材、資源、製薬、自動車、精密機械、金融などの分野で、欧米企業と競争を繰り広げる日本発のグローバル企業です。VUCA時代において、新しい製品やサービスをすべて社内で創出することは困難であり、そのためこれらの企業の大半がM&Aを通じて持続的な成長を追求しています。公表されているデータによると、日本企業による海外企業の買収は、近年年間600-800件程度で推移しており、その中で米国企業の買収は100-150件程度です。我々の推測ではこれらのうち約1-2割がすでにグローバル市場で活躍している企業による戦略的な買収です。

しかし、すでにグローバル市場で他国企業と競合し成長している日本企業は数十社程度しかないと思います。他の多くの日本企業はなぜ積極的な海外事業展開を行わないのでしょうか?多くの上場企業は終身雇用、調和と共調、株の持ち合い、社会貢献を重んじています。これらの価値観のもとでは、リスクを冒して収益を拡大するよりも、現状を維持し、事業と雇用の安定を優先する傾向にあります。稼いだ利益を再投資せずに蓄積することで、簿価が増加する半面、投資先としての魅力が低下し株価が低迷し、PBRが低下しています。加えて、社内にグローバル市場に関する知見が不足しており、海外事業を運営できる人材も限られている状況もあります。

国内市場に限定して事業を行い、日本企業とのみ競争している企業にとっては、この経営アプローチに問題はないかもしれません。しかし、『INSIGHTS』をお読みの皆さんの多くはグローバル事業に関わっており、外国企業との競争に勝利しなければ将来の成長は望めないかもしれません。業界の主要プレイヤーになれなければ、市場から淘汰されるかもしれません。

多くの日本企業で、X年までに海外事業や新規事業からの売上を総売上のY%にするという目標が設定されていると思います。しかし、目標を達成するためには具体的な作戦が必要です。そして具体的な作戦を策定し実行するためには以下のような体制の整備も必要です。

■ コミュニケーション能力、リーダーシップ、マネジメントスキルを備えたグローバル人材の育成と確保

■ 現地従業員の本社への登用・グローバル組織構造の形成

■ グローバル事業推進の予算化

■ 駐在・研修機会の増加や関連制度の高度化

■ グローバル人材を対象とした変動報酬制度やKPIの導入

しかし、グローバル事業経験が不足している日本企業の場合、この理想的なアクションのリストを理解できても、実行は難しいかもしれません。体制を整備するだけで10年以上かかるかもしれません。より実践的なアプローチとしてまずグローバル市場分析や機会の探求を行う特別チームを設立することを推奨します。すでに国際事業本部のような部署がある場合はその組織に情報分析や戦略立案の責任を与えることを推奨します。米国法人においては新規事業開発や売上増大の一環として情報分析を行うことを奨めます。人材不足であれば、海外事業経験を持つ人材を外部から採用することが一つの解決策です。適切な人材を確保することが難しい場合は、コンサルタントの利用が効果的です。そして収集した情報をもとに実行可能な戦略を策定します。その戦略に基づき、現地企業への投資、戦略的パートナーシップの構築、事業や資産の買収など、一歩一歩前進しながらグローバル事業のノウハウを蓄積すべきです。どんなに準備をしても、全ての投資や買収が成功するわけではありませんが、合理的な戦略と丁寧な準備により成功の可能性は高まります。より多くの日本企業が現実に基づいたグローバル事業計画を策定し、自己資金を有効に活用して実行に移し、グローバル市場での持続的な成功を遂げることを願います。