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(11) 適応型(アダプティブ)リーダーシップ

みなさんはリーダーシップという言葉を聞いてどのようなイメージを持つでしょうか。自己主張が強く、部下をぐいぐい引っ張っていくような人でしょうか。アメリカ人にはそういう人が多く日本人には少ないというステレオタイプがあるかも知れません。またアメリカ企業は厳密なジョブディスクリプションと階層構造(報告義務のある上司は一人だけ)という、いわば軍隊的規律を持っていると言われます。それに対して伝統的な日本企業ではボトムアップが尊重され、複数のマネジメントによる集団的な指導体制が行われるという見方があります。米国に駐在してその違いを実感した人も少なくないかも知れません。 

ただ、これからの時代ではいずれのやり方でも事業を成長させられないかもしれません。アメリカでは昔からリーダーシップの研究が進んでいます。VUCAのような予測不可能な時代においては、経験豊富なリーダーといえどもその判断が正しいという保証はありません。むしろ自分の正しさにこだわらず状況に合わせて柔軟に対応方法を変える、しかもそれが職位に関係なく組織の全員に期待される、そういうリーダーシップ像が提唱されています。今回はそのコンセプトをご紹介します。 

その背景には組織が直面する課題を大きく2つに分けるという考えがあります。 

テクニカルな課題

アダプティブな課題

 

テクニカルな課題は既知の課題です。専門家や経験者を集めれば解決可能なものです。そこで必要なリーダーシップは資源(ヒト・モノ・カネ)を最適配置するための指揮命令系統です。将来を正しく予測し、組織メンバーに明確な指針を示し、自信を持って解決策を実行していく(反対意見を論破する)権威的な指揮官が求められます。 

アダプティブな課題では問題の範囲も解決策も未知です。解決策はよそから運んでくるのではなく、自分たち自身で編み出す・自分たち自身が解決策の一部になるようなものです。この場合は、階層を問わず組織のあらゆる場所から新しいアイデアを積極的に取り込み、失敗を許容し、新たな環境への組織的適応を促すような適応型(アダプティブ)リーダーシップが必要になります。 

例えば新型コロナウィルスは適応を必要とする問題ではないでしょうか。最初のうち人々はパニックを起こし、自分たちの不安を鎮めてくれる強い指導者に期待しました。各国のリーダー層も最初はウィルスを過小評価し根拠のない楽観論を広めることに腐心したようです。しかしながらコロナウィルスは人類にとって未知の問題であり、解決策は試行錯誤を通じて作り出すしかなく、しかもそれは唯一のものでも恒久的なものでもありませんでした。 

適応型リーダーシップに必要とされる個人的な資質は、権威的なリーダーシップと大きく異なります。 

他人に対する高い感受性を持つ

組織が拠り所とする正義を通す

組織を鼓舞し一層の高みを目指す

個人の透明性・一貫性・誠実性を保つ

 

適応型リーダーシップは権威的リーダーシップに比べてより高度で複雑に見えるかも知れません。またリーダーシップをとることは個人的なリスクを伴うので、あえてリスクを取ることを推奨する風土改革が必要でしょう。また職位の低いメンバーが声を上げるには勇気と励ましが必要になります。さらに適応型の問題解決は組織の構造的な変化を伴い、勝ち組と負け組が生まれます。その場合の損失を納得できる方法で配分する仕組みが必要になります。 

これらは一種の理想論のように見えますが、こうしたことを理論化しようとする知識層(大学教授など)やそれを実践しようという先進的な経営者がいるのがアメリカの強みだと思います。今話題のDXにおいても、デジタルツールの整備と同時にこうした従業員のマインドの改革が必要だと思います。社内でDXプロジェクトを推進する上で適応型リーダーシップの育成は欠くことのできない視点ではないでしょうか。