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VUCA時代の企業経営

(8) SpaceXがなぜハイリスクな航空宇宙産業で快進撃を続けるのか

今、民間企業による宇宙ビジネスが脚光を浴びています。 

これまで宇宙開発は、巨額の資金を必要とし国家プロジェクトとしてのみ成立していました。それがテクノロジーの進歩と普及によって民間企業でも低リスクで参加できるようになりました。時代は民間の活力や柔軟性を活かすフェーズに移りつつあります。中国は宇宙関連事業向けに主要な国営企業2社に加え数百社の民間企業を育成しているそうです。最近では本田技研が小型ロケットの自社開発を表明して話題になりました。 

こうした民間宇宙ブームの最大の立役者がSpaceXと言えるでしょう。SpaceXは次々と斬新なアイデアを繰り出し、革命的な低コストによるロケット打ち上げを可能にしました。最新ロケットのファルコン9の打ち上げコストはスペースシャトルの3分の1と言われます。低コストの理由には次のようなことが挙げられます。

 

内製化 

創業者のイーロン・マスクは、ロケットの原材料費は全体の価格の数%に過ぎないことに着目し、85%を自社生産することで中間コスト削減を図りました。また既存大手企業が複数サプライヤーを統括するインテグレーターだったのに対し、SpaceXでは一箇所の工場で自社生産することでサプライチェーンにおける納期と品質を担保します。

 

デザインの再利用

ファルコン9は、最初に作られたファルコン1のロケットエンジンを9つ組み合わせています。さらにファルコンヘビーはファルコン9を3つ使っています。こうして一度作ったデザインの品質向上とコスト削減を狙っています。

打ち上げたブースターの再利用と洋上無人着陸船の開発(それによりブースターが陸上の着陸場に戻る必要がなく燃料が節約できる)。 

企業経営の面で特筆すべき点としては次のようなことが挙げられます。

 

困難な状況でもやり抜く

今こそ順調に見えるSpaceXですが、2006-2008年には打ち上げを3回連続で失敗し倒産の危機に直面しています。それでも事業を継続できた理由として、私企業のオーナーだからできる強いコミットメントがあったと思います。それに比べて、政府機関であるNASAは議会の意向により方針が安定しません。日本のJAXAが持つ国産ロケットは極めて高い打ち上げ成功率を持っていますが、失敗するごとに政治問題化しているようです。 

兄弟会社であるテスラも2018年にモデル3の量産に苦しみ倒産の噂も流れました。アジャイルと過度のオートメーションはクルマのものづくりに向かないのではという意見も出ましたが、SpaceXからのエンジニアを大量投入してなんとか切り抜けています。

 

オーナー社長による実践的な開発手法

デザインについてあれこれ机上で議論するのではなく、ある程度煮詰まったところで実機を使った実験を繰り返してそこから学びます。ブースターの再着陸失敗や超大型ロケット試作機(スターシップ)の爆発シーンは有名になりました。これは以前紹介したアジャイルの考え方に基づいています。 

今でこそ華々しいSpaceXですが、日系企業がそこから何を学べるでしょうか。SpaceXは急に大躍進したように見えますが、その成果が出るには創業から15年以上かかっています。テスラも同じです。その間に多くの失敗がありそこから立ち直っています。日系企業によくある3年毎の中期経営計画(中計)の積み重ねでは、新しい試みの多くがフィージビリティスタディで終わってしまい、革新的な新事業を生むことは難しいのではないでしょうか。VUCA時代では、3年ではなく1年と10年の2つの物差しを持つことを提案したいと思います。10年の方向性を掲げつつ、それに向けて1年ごとに成果をチェックします。それによって継続的なトランスフォーメーションを追求します。 

最後に夢を語ることの重要性を指摘したいと思います。マスクはSpaceX設立当初から火星に人を送るというビジョンを持っていました。彼は人類の将来は地球の外にあると考えています。それに共感する若手のエンジニアをトップの大学から迎えて、伝統企業にない活力のあるチームを作ることができたと思います。