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脱炭素ビジネス

(7) サーキュラーエコノミーとは何か

脱炭素を含む持続可能性に役立つ考え方として、サーキュラーエコノミー(循環経済)という言葉があります。これは従来のリニア(直線的)エコノミー、つまり資源獲得、調達、生産、物流、使用、廃棄、のような一方通行のマテリアルフローに対する反省に基づくものです。リニアエコノミーが継続するためには2つの前提条件があります。一つは資源が無尽蔵にあること、もう一つは経済活動の結果として発生する廃棄物や公害の負の影響を無視していいことです。どちらも20世紀半ばには、非現実的であるばかりか人類の生存を脅かす考えとして批判されました。その解決策は廃棄物を出さないか廃棄物を資源に再生するような環境負荷の少ない経済活動です。

サーキュラーエコノミーは単なる製品リサイクルではありません。環境負荷を最小化するために、企業活動の全てにおいて無駄を省き、一度形成された価値をできるだけ長く維持し再生することを狙います。ここで言う価値には経済価値だけではなく、安全な社会や生物多様性などの社会的および環境的価値も含まれます。

 

サーキュラーエコノミーの3つの原則と言われるものがあります。

1.       製品設計の改良によって根本から廃棄と公害をなくす

2.       天然資源や人間の作り出した資産を社会の中で循環させ繰り返し利用する

3.       自然による資源の再生を支援する

資源に乏しく国土の狭い日本においては、昔から無駄を減らしたりモノをリサイクルするためのいろいろな工夫が行われてきました。その点で日本企業はアメリカ企業に比べてサーキュラーエコノミーを受け入れやすいと思います。しかし国を問わず企業がサーキュラーエコノミー実現に取り組む一番のメリットは、それを通じてビジネスモデルのイノベーションを起こせることだと思います。

具体的なヒントを挙げてみます。

■ 使い捨てではなく繰り返し使える製品

■ 生分解する製品

■ ユーザーが自分で補修できる製品

■ 容器の再利用、内容物のリフィル

■ 顧客間でシェアしやすい製品やサービス

■ 買い切りではなくレンタル

■ 製品ではなくサービスを提供

■ 使用後の製品買い取りと再販

これらを実現するためには、ビジネスの組み立て方そのものの見直しが必要になる場合もあります。例えば、

顧客中心のオペレーション体制

エンジニアが上流にいて次にサプライヤー、顧客接点にセールス、下流にアフターサービスというような直線的な機能配置ではなく、顧客価値の創出と維持のために全ての機能が共同して働くような仕組みが求められます。これにより製品の長期に渡る利用、保守、アップグレード、リサイクルなどが可能になります。そのためには社内外での情報共有基盤の整備やKPIの見直しが必要になりますが、これらが実現すれば他社には容易に真似できない競争優位が獲得できます。

 

コミュニティによる価値創出

循環させるのはモノだけではなく、知的資産やアイデアも含まれます。関連会社やユーザーを含んだコミュニテイを育成し、メンバーが知恵を出し合うことで結びつきが生まれ、エコシステム全体としての競争力を高めることができます。オープンソースによるソフトウェア開発や再利用はこの例と言えるでしょう。持続可能性という観点では、規制機関、地方公共団体やNGOなどとの協業も有効です。

最後に企業のサーキュラーエコノミー活用例をご紹介します。

オランダに本社を置くGERRARD STREET社は、ハイエンドのヘッドフォンを定額制で提供するビジネスを始めました。ヘッドフォンはオーディオの音質を決定する大変重要な機器です。さらに体に装着するものでもあり、ユーザーの中には個人的な愛着を持つ人もいるでしょう。しかしながら、高機能のヘッドフォンは高価格でありながら故障も多く、ユーザー層は限られています。メーカーからみても些末なカタログスペック向上やマーケティングにコストがかかり収益性は低いようです。

GS社は製品を交換可能なモジュール構成にし、ユーザーが不具合を報告した次の日に交換部品を受け取れるようにしています。ユーザーは自分で部品交換を行い、交換された部品をGS社に返送します。定額サービスを購入したユーザーは何度でも製品交換や部品交換ができます。GS社は部品の85%を内部でリサイクルします。

GS社はサブスクリプションモデルと製品のモジュール化によって顧客課題を解決しています。さらに使い捨てが多い電子機器に対する消費者のフラストレーションに応えることでユニークなブランド価値を作っていると言えるでしょう。