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脱炭素ビジネス

(3) Autodesk

カリフォルニアに本社を置くAutodeskは40年の歴史を持つソフトウェアの会社です。AutoCADなど、設計・デザインのためのツールでトップシェアを持っています。一見ソフトウェア会社と脱炭素は関係が薄いように見えるかも知れません。しかしAutodeskは脱炭素を含む世界的な持続可能性のトレンドをビジネス環境の変化と捉え、オペレーションと製品のシフトを図っています。AutodeskのESG戦略(Impact Strategy)は次の三つの柱からなります。  

1.   自社のオペレーション改善 Improve our operations

2.   製品を通じた改善 Partner with customers

3.   業界への働きかけ Advance industries

1. は分かりやすいでしょう。2021年には自社のオペレーション(オフィス、クラウド、ホームオフィスなど)を100%再生可能エネルギーでまかなう、いわゆるRE100を達成しています。実際に電気はグリッドを通じて電力会社から調達するわけですが、自社で消費するのと同等の再生可能エネルギーを買う(renewable energy certificates)ことで理論的には脱炭素を達成します。それに加えて、CO2排出量(直接排出およびエネルギー使用に関わる分)を2031年までに50%削減するというゴールを2020年に設定しています。

注目するべきは2.で、これは自社製品を通じて顧客の環境経営を推進しようというものです。新たなニーズを先取りし差別化を図る戦略と言えるでしょう。ソフトウェアは人間のノウハウのかたまりですから、世界中の顧客が必要とする脱炭素のノウハウを商品化することを狙っています。 

具体的には次のような機能を製品にしています。  

グリーン建築物のデザイン。ビルディングはCO2を含む全GHGの19%を排出していると言われます。その内訳は材料に使われるセメントや鉄骨などの製造過程で排出されるものと、建築後の照明や空調の電力消費によるものに分けられます。Audodeskのソフトウェアは建築材料ごとのCO2排出量をデータベースとして提供し、最適な素材選択を可能にします。以前はその積み上げ計算に多くの人手と時間がかかり、正確な排出量を知ることは不可能でした。またビルディングのオペレーションについても、空調や照明機器の配置をシミュレーションすることでエネルギー効率の最適化に貢献します。

従来のモノづくりのための設計ソフトウェアも進化しています。高度な構造解析を通じて原材料や工程を減らすことでエネルギー効率を高めたり、工場や生産ラインのシミュレーションを通じて全体効率化を図ります。

その他、脱炭素を狙った都市の交通網の整備や、エネルギー効率を高める上下水道のネットワーク設計など、複雑で大容量データ処理が必要な計算を専門知識がなくてもできるようにするソフトウェア群を提供しています。

こうした製品の開発と普及には資金が必要です。Autodeskは2021年に10億ドルのSustainable Bond(社債)を発行しています。環境経営が事業戦略として投資家に認められていることの一つの証拠と言えるでしょう。

Autodeskから日系企業が学べることは何でしょうか。一つはソフトウェアがますます重要になっていることです。脱炭素を達成するためには、個別のモノにだけフォーカスするのではなく、その組み合わせや利用方法などをトータルに考えることが必要です。その複雑な計算はコンピューターにしかできません。ソフトウェアはそうした高度な計算を身近なものにしてくれます。全ての業界でソフトウェアをうまく使うことが生き残りに必須になっています。二つ目は脱炭素と事業戦略をリンクすることは可能だということ。脱炭素は顧客に新たなニーズを作ります。それを競合他社に先駆けて取り組むことで新しい差別化が可能になります。