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(20) 環境危機の最悪シナリオを防ぐには

 日本でもついに、2050年に温暖化ガス排出量ゼロ(森林によるCO2吸収を考慮したプラスマイナスでゼロ)という目標を政府が掲げ、欧州諸国と足並みを揃えました。この実現のために、アンモニア燃焼や水素利用、炭素回収(カーボンキャプチャー)などの先進的な技術開発が期待されています。トランプ政権は温暖化対策に後ろ向きでしたが、これまでアメリカの排ガス規制をリードしてきたカリフォルニア州が、2035年には内燃エンジン(ICE)の新車販売を禁止するという目標を発表して話題になっています。

 しかしながら、パリ協定で合意した、気温上昇を産業革命前に比べて摂氏2度以下に抑える、という目標を達成することは非常に困難だと言われています。今までの実際の排出量の推移をベースにシミュレーションすると、2100年までに気温は約4度上昇すると予測されています。この場合、干ばつ、海水面上昇、塩水化、洪水、ハリケーン、火事、熱帯性疫病、生物多様性の減少などによって、人々の暮らしに深刻な影響が出ると予測されています。

 このシナリオが現実のものになった場合、海水面上昇によって沿岸部の都市では堤防を築くか、内陸への移動が必要になるでしょう。低緯度地方では暑さのためもはや生活ができなくなり、高緯度地方への人口移動が発生すると言われています。国連が予測する最悪のケースでは、南アジアやアフリカなどの途上国を中心に、2050年までに2億人の環境難民が発生すると言われています。近年西ヨーロッパ諸国が経験しているように、難民の流入は受け入れ先に経済的・社会的ストレスを発生させます。テロや戦争の可能性も心配されます。

 厳しい予測ばかり紹介しましたが、アメリカとイギリスでは第二次世界大戦の経験を引き合いに出して、再び総力戦をするぐらいの覚悟で国を挙げて産業構造を大転換しよう、自分たちの国にはそのポテンシャルがある、と考えている人たちもいます。彼らは、その過程で新しい技術や産業も生まれるし国の団結力も高まる、と前向きに捉えています。戦勝国ならではのアナロジーだと思います。もちろん日本にとっても大きなチャンスです。一例を上げれば、早くから水素社会を提唱している日本には先進的な水素利用に関する技術的な蓄積があり、世界への貢献が期待されています。