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(18) デジタル時代に必要なリスキリングの進め方

日本では岸田首相が2022年の所信表明演説でリスキリング(Re-skilling、スキルの学び直し)について触れ、5年で1兆円の投資をすると発表して話題になりました。デジタル化の加速によって新しいスキル(技能・知識)が生まれ、その習得が国の競争力の維持には欠かせないということは先進国では今や常識になっています。 

デジタル化の加速にはコロナ禍の影響もあります。日米ともに多くの企業でe-コマースの利用が加速し、ウェブサイトやソーシャルメディアを使ったデジタルマーケティングの重要性が増しました。テレワークが普及し、ビデオ会議やコラボレーションツールを使いこなすことが社員の生産性に大きな影響を与えるようになりました。 

今までは仕事で必要なスキルはまずは学校で基礎を習得し、OJTを通じて時間をかけて身につけるものでした。財務経理のような専門知識や、営業や顧客サポートのように方法論と実務経験の組み合わせが必要なスキルは今後とも必要です。しかし今やデジタル技術が新たな競争力の源泉となっています。財務経理で言えば大量のデータ分析や視覚化(アナリティクス)、営業であればデジタルマーケティングなどです。最近ではAIの活用が全ての職種に求められています。しかしながらこうしたスキルを持つ人材は限られており、社外から調達することは簡単ではありません。さらにスキル自体の賞味期限がどんどん短くなり、新しく採用した人材も毎年のように新しいスキルを学ぶことが常態化するかも知れません。 

こうした環境変化を受けて、米国企業の多くは社員教育への投資を増やす傾向があります。当然ながらGoogleやアマゾンのようなテクノロジー企業は社内リスキリングプログラムに巨額な投資をしています。一方で、予算の限られる中小事業や非テクノロジー企業では自社のニーズに的を絞った教育プログラムを用意する必要があります。しかしそこで問題になるのは、社員自身も具体的にどのようなスキルが必要なのかアイデアを持ち合わせていないことです。 

リスキリングの最初のステップは社員が持つべきスキルを見定めることです。全ての企業に当てはまる正解は存在しません。それぞれの企業が競争環境に合わせて試行錯誤する必要があります。業務担当者と人事担当者とIT担当者の三者が知恵を出す必要があります。IT部門にはデジタル時代の先導者として、社員リスキリングに特化した新しい役割を果たすことが求められるかも知れません。 

デジタル時代のスキルは汎用的であると同時に企業ごとにカスタマイズする必要があります。原理の理解から、ツールの習熟、ビジネスへの適用、他スタッフへの教育に至るまで、すべてを自社でまかなうことは難しいかも知れません。社内の専門チームが企画を行い、実行は社外のサービスプロバイダーに外注するなどの方法が考えられます。またグループ企業であれば本社によるシェアードサービスとして子会社に教育プログラムを提供することもできるでしょう。