(16) ビジネスにおけるAIの活用例
2011年にIBMがワトソン(Watson)という対話型AIを発表しました。ワトソンは米国のクイズショーで人間に勝って大きな話題になり、IBMはAIを使った産業の大変革を狙いました。しかしながら、人間に代わって高精度な病気の診断をしたり新しい治療方法を発見するなどの当初の野心的な目標は達成できなかったようです。2022年初めにIBMはワトソンのヘルスケア事業を売却しました。一方で、もう少し地味なプロセス自動化やチャットボットなどの機能はクラウドと一緒になって提供され、世界中で使われています。
2023年の米国においてAIがビジネスのどのような局面で使われているか見てみましょう。
多くの企業で使われている
■ ルーチンプロセスの自動化、機器の予防保守、販売・購買データ分析、画像認識、自動翻訳など
先進的な企業で使われ始めている
■ 顧客体験の提供(会話、パーソナリゼーション)、チャットボット、採用判断、不正モニタリング、ドローン・衛星データ分析、自走式ロボットなど
まだ使い方が手探り状態
■ 文書・画像・音楽などの自動生成、個人アシスタンス(メモや閲覧履歴管理)、データの自動分類、タグ付けなど
英語圏では会話型AIの利用が急速に進んでいます。日本語に比べると英語は主語・述語がはっきりしていて機械処理に向いているようです。さらにWikipediaやYouTubeなど機械学習に活用できるデータが豊富にあります。機械が人間に代わって音声応答をしたり、テキストを使ってチャットボットが問題解決を援助することが普及しています。日本に比べてコールセンターエージェントの習熟度が低いことも機械応答の普及を後押ししているのかもしれません。カスタマーサービスの人間と話すために長時間待たされるよりは、機械と会話をすることを好む人も増えているようです。
会話型AIのユーザーは顧客だけではありません。社内の問い合わせにも使われています。人事やITに関する質問の回答をAIに任せることで、それらの部門の社員は問題解決などの高度な業務に集中することができます。
冒頭で話題にしたヘルスケア業界でも、会話型AIに期待が集まっています。医師に代わってAIが診察することは難しくても、すでに治療中の患者のモニタリングや医薬品利用のリマインドなどでは、メールやテキストよりも会話を通じた働きかけが有効だそうです。また何らかの事情で生身の人間とは話したくないという患者が援助を受けるきっかけを作れるかもしれません。
こうしたトレンドの多くは少し遅れて日本にも伝わってくると思われます。また、日本特有のニーズに合ったAIが米国より速く普及することもあるでしょう。競合他社や異業種におけるAI活用例をモニターしながら自社でのAI活用を計画することをおすすめします。