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(9) DX事例紹介 2 - Best Buy

今回は家電小売チェーンであるBestBuyを取り上げます。

アメリカに長く住んでいる方は、CircuitCityとRadioShackという家電小売店を覚えているかも知れません。どちらもAmazonとの競争に負けて撤退しました。Amazonはリアル店舗と販売員を持たず、その分低価格で商品を提供できます。そうした中で、BestBuyはどうやって生き残ってきたのでしょうか。

Showroomingという言葉があります。消費者がBest Buyのようなリアル店舗を訪れて商品を見比べるが、実際の購買はより安価で買えるAmazonで行うということで、リアル店舗はAmazonのために無料ショールームを提供している、という事態を意味します。

BestBuyの変革は、2012年に旅行サービス業最大手のCarlsonからHubert JolyをCEOに迎えた時から始まります。Jolyは「Renew Blue」という企業再生プログラムを立ち上げました。施策としては顧客体験の向上やリーダー層の入れ替えやコスト削減などがありますが、注目を浴びたのが、Showroomingを逆手にとってメーカー(サムソンやレノボなど)からフィーを徴収するビジネスモデルです。彼らは実店舗を持たないために消費者との直接の接点がなく、商品のプロモーションと同時に消費者の生の声を聞くことができる機会を求めています。BestBuyは店舗内にメーカー専用の展示スペースを設することで、メーカーに消費者との接触機会を提供しその対価を得るようにしました。

そうして得た儲けを使ってAmazonとのプライスマッチングを可能にしました。消費者からすれば今度はBest Buyから買わない理由がなくなったわけです。さらにAmazonに対抗して、オムニチャネル(リアル店舗とデジタルの融合)を戦略としました。BestBuy.comで購入した商品の店舗でのピックアップはもちろん、リアル店舗を倉庫網として活用し翌日無料配送を実現しました。

サービスビジネスは2002年にGeek Squadというトラブル解決サービスを買収しています。月額19.90ドルの定額制で、機器を問わずリモートおよび出張サポートを提供します。さらにBest Buyのコンサルタントが無料で消費者の自宅に出向いて相談に乗ることで、顧客のニーズ把握と関係構築に努めています。

またモバイルアプリやe-commerceサイトの充実と同時にリアル店舗への投資を続けて、顧客体験を絶えず新鮮なものにしているのも成功要因の一つでしょう。この点は同じ勝ち組であるTargetにも共通しています。

JolyはBest Buyの目的(Purpose)を再定義したことでも知られています。BestBuyの目的は家電を売ることでも小売店を続けることでもなく、テクノロジーを使って人々の生活を豊かにすることだ、と。こうした視点で考えると、さらなるサービスビジネスの可能性が見えてくるかも知れません。