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(8) DX事例紹介 1 - Caterpillar

最初にご紹介する事例は建設機器最大手のキャタピラーです。

キャタピラーは100年近い歴史を持ち、世界190ヶ国以上で160以上の代理店(ディーラー)を通じて建設機器や資源採掘用機器を販売しています。その経営数値はアメリカはもちろん全世界の経済の状態を示す指標として用いられるほどの大企業ですが、次のような課題に直面しています。

まず日本のコマツや日立、韓国のドーサン、中国のサニーのような競合が力をつけたことで価格競争が激化しています。さらに機器の販売は景気に左右され財務体質を不安定にします。保守部品の販売および保守サービスは高マージンですが、ニーズの予測が困難で安価なサードパーティの代替品により販売機会の損失を招いています。

キャタピラーは業界のリーダーとして20年以上前から機器の情報通信利用(テレマティクス)や自動運転に取り組んできましたが、上記のような課題と近年のデジタル技術の進歩を取り入れるために次のような手を打っています。

2017年にデジタルソリューション本部(Digital Enabled Solution Division)を設立しました。その後、2018年に日産・ルノーでコネクテッドカーをリードしていたOgi Redzic氏をチーフデジタルオフィサーとして採用し、DESDのトップに置きました。DESDはデジタル技術を使って3つの事業部門とキャタピラー全体のDXを支援しますが、それ自体はコストセンターです。(これは新部門であるGE Digitalが自らソリューションを外販するGEとは対照的なアプローチです)

デジタルソリューションの主軸はCatConnectと呼ばれる一連のソフトウェアで、これによりGPSと連動した資産管理やサテライト・セルラー通信を通じた機器の遠隔診断や予防保守が可能になります。ユーザーインターフェースとしてはWebポータルに加えモバイルアプリを提供しています。ソフトウェアの利用はサブスクリプションベースで、基本的な機能は無料で高度な機能は有料で提供します。

こうして機器を売った後も最終顧客と接点を持ち続けることで、セールス部門のメンタリティが、とりあえず代理店に機器を押し込めばいいという考えから、代理店と一緒になって最終顧客のLTV(生涯価値)を最大化することに変化しています。

日本のコマツは業界2位ですが、キャタピラーに先行して機器のスマート化に取り組んでいます。コマツは1999年からComtraxというGPSと連動した機器稼働管理システムを顧客に無償で提供しています。ソフトウェアによる差別化競争は、今後リモート操作や無人運転、さらには採掘現場や建設現場の機器全体のオペレーション自動化を巡ってますます激化していくと考えられます。

最後に、ソフトウェアの競争は技術の開発競争だけでなく、人々の技術受容の競争でもあります。先進国では建設業界全体の高齢化が進んでいます。今までモノ売りで成功してきた代理店がソフトウェアの価値を理解し新たな収益モデルに移行すること、言わば代理店のDXをメーカーとしてどう支援していくか。デジタル化についていける代理店とそうではない代理店の選別が始まるかも知れません。