(6) デジタルトランスフォーメーションの実践(DXプロジェクト進め方編)
前回までにDXの実践アイデアとその基本となるコンセプトについてご紹介しました。今回は本格的なDXプロジェクトの進め方について概要をお話します。
デジタルマーケティングやオンラインコラボレーションを通じてデジタルアダプション(受容)の経験が蓄積されたら、トランスフォーメーション(変革)に軸足を移します。第一回で述べたように、将来はますます予測が困難になっていて、競合に先んじて新たな付加価値を発見してそれをキャプチャーすることが企業の存続に不可欠になっています。そうした企業文化や働き方を全社に展開するのがDXの最終的な目的と言えます。
変革には大きく2つの切り口があります。一つはビジネスモデル自体は変えず、それを支えるプロセスをデジタル化する方法、もう一つは、新しいビジネスモデルに挑戦する方法です。
プロセス変革の試みとして、新商品の開発から市場投入までのサイクルを今までとは全く異なった仕組みで考えてみるのはいかがでしょうか。例えば今までの3分の1の時間でできないか、あるいは2分の1のコストでできないか、社内のリソースを全く使わないでできないか、など視点を変えて既存の前提条件にチャレンジしていきます。
ビジネスモデル変革としては、デジタル技術を使った周辺事業・周辺顧客の開拓があります。基幹製品がハードウェアであればソフトウェアを追加で売ったり、プロダクト売り切りではなくサービスとして提供することが考えられます。また課金方式も成果報酬制や定額制などを採用することで新しい顧客層にアピールできるかも知れません。
どちらの変革でもあまり机上で煮詰めず、実験的手法を使って知見を取得します。有名な例ですが、靴のオンライン販売ザッポス(zappos)の創業者は、「オンラインで靴を買う人はいない」という当時の常識を検証するため、他社の実店舗で撮った靴の写真を自分のサイトで売出したところ、実際に買い手がついて成功を確信したという逸話があります。
実験のスピードアップのためには、社内のリソースにはあまり頼らず、第三者のアウトソーサーやクラウドサービスを使うことをおすすめします。クラウドは低額で実験的に使うことができ、うまくいったらスケールアップすることが容易だからです。さらにクラウド上に集まったデータやAPI(プログラム連携)を効率的に使うことができます。
実験を通じて経験を積んだら、次に現業部隊を巻き込んだ本格展開です。ここでよく問題になるのは、日本では新事業と既存事業の間の死の谷、アメリカではnot invented here (NIH) mentality と言われるような、現業部隊のオーナーシップの欠落です。収益責任を持つ現業部隊が新しいことのリスクを取りたくない、リソースを割きたくないと考えるのは当然かも知れませんが、それを乗り越えるのがCDOあるいはCEOの役割です。さらにDXが進んだ先進企業では、現業部隊が自ら実験的手法を使って新事業を生み出す企業風土変革を目指しています。