(5) デジタルトランスフォーメーションの実践(コンセプト編)
前回までにDXの実践アイデアと組織体制についてご紹介しましたが、DXの根底にある考え方(コンセプト)には以下のものがあり、これらを理解しておくことは重要です。この3つは互いに関連しています。
■ Time to market 商品投入サイクルタイムの短縮
■ Customer experience 顧客経験の把握
■ Design thinking デザイン思考
商品の進化が著しい業界では、Time to marketを短縮することは競争優位に立つために極めて重要です。しかしながら、多くの場合Time(時間)はQuality(品質)とCost(原価)とのトレードオフの関係にあり、一方的に時間だけを短縮するわけにはいきません。成熟した企業であればなおさら新しいやり方に慎重になります。
DXがしがらみの少ない新興企業や新事業から始まるのはこうした理由があります。ソフトウェアであればシリコンバレー、ハードウェアであれば深センのような場所で生まれたベンチャー企業がめざましい発展を遂げ、その手法を大企業が取り入れています。
Timeto marketを短縮する手法の一つはソフトウェア開発手法(アジャイル開発)にヒントを得た商品開発です。その際に重要になってくるのが次に紹介する顧客経験の把握です。厳密なニーズの定義をもとに商品を設計するのではなく、プロトタイピングを繰り返しながら顧客の反応を分析してニーズの掘り起こしを続けます。
2つ目の顧客経験は、顧客が価値を見出すのはモノとしての商品だけではなく、購入前から購入後のすべての経験の総体であるということです。顧客がどのような期待を持ち記憶を残すかを、顧客の観点から洗い出し購買行動につながるように強化策を打ちます。クロスセルやアップセルを通じて生涯にわたっての経済価値(ライフタイムバリュー、LTV)の最大化を狙います。
3つ目のデザイン思考を一言で言えば、あらゆる仕組みは、顧客の課題解決というゴールに合わせて設計し直すことができる、という発想です。これはある意味では企業活動の狙いと相反する部分があります。例えばルーチン化は品質安定とコスト削減のために重要ですが、デジタルの時代ではルーチンは機械に任せて、人間は仕組みの見直しに注力します。そのために新しい発想や実験的手法を積極的に取り入れていきます。
アメリカではこれらのコンセプトはDXが言われる前から常識になっています。ものづくりを得意とする日本企業ではどちらかというと製品の品質や性能にこだわり、その反面でスピードや顧客観点での発想に遅れをとっているように感じます。グローバル競争で勝ち残るためには避けては通れない課題ではないでしょうか。