(4) デジタルトランスフォーメーションの実践(組織編)
前回までに、DXの具体的な取り組みとして、デジタルマーケティングとオンラインコラボレーションをご紹介しました。これらはどちらかというとデジタル技術の受容(アダプテーション)で、変革(トランスフォーメーション)には及ばないかも知れません。本来DXが目指すのは、経済価値が生まれる場所が物理空間からサイバー空間から移動することによるビジネスモデルの再設定だからです。それにはトップダウンによる組織変革と継続的な投資が必要になります。
先進的な企業では、そのためにCDO(チーフデジタルオフィサー)を設置する場合があります。そうしたポジションを新設することによって外部から人材を採用しやすくしたり、内外に向けて経営者の意思を表明する効果があります。CDOはCEO直属の執行役員としてDXの総指揮をとります。複数事業を抱える企業では本社CDOの他に各事業部ごとにCDOを置く場合もあります。
CDOの設置が難しい、または不要な場合はCEO直下にデジタルオフィスを作り、そこに専属のスタッフを集める場合もあります。
どちらの場合もDXの実現に必要な知識と権限を持った専属スタッフの設置(場合によっては採用)が必要です。本業との兼務や社内出向のような形では既存のやり方を否定するような発想は生まれてきません。また全社的なステアリングコミッティーにレポートさせたりせず、自由な発想を進められるようにします。
チームの最初の仕事はDX実現のためのロードマップ(2年程度)の策定です。そのベースになるのが、顧客視点に立った情報収集です。企業活動の全ての側面を顧客価値の提供という観点から見直すことで、ブレのない「あるべき姿」を描くことができるからです。顧客の課題と行動特性をいくつかのパターン(ペルソナ像)にまとめます。マーケットリサーチを買ったりするのではなく、顧客の声と同業他社の情報を自分で集めます。これも可能であれば、既存の営業部門に依頼せず直接顧客にリーチすることをお勧めします。
次に顧客の課題解決のアイデア(仮説)出しとプロトタイピングを繰り返します。プロトタイピングの目的は、収集した情報をベースに仮説を検証するとともに顧客の反応を基に新たな知見を得ることです。蓄積された知識の賞味期限はますます短くなっています。学び続け変容しつづける企業風土を作ることがDXの目的の一つです。
ロードマップは個々のプロジェクトプランとは異なり、厳密に工程を決めるものではありません。その代わり、全社的であることと、引き上げるべきデジタル能力(ケイパビリティ)の現状とあるべき姿のギャップが明確になっていることが重要です。