(15) DX事例紹介 8 - Ecolab
今回は水処理・衛生・感染防止大手のEcolab(エコラボ)社を取り上げます。EcolabはEconomics Laboratory の名前で1923年に創業し、その後多くの事業を買収しています。中心事業は食品やホスピタリティ業界向けの衛生消毒薬剤の販売とサービスです。アメリカでEcolabマークの付いたサニタイザーを見かけた人は多いと思います。
Ecolabから消毒薬や洗剤を買う顧客の多くでは、清掃・消毒作業は最低賃金で働く清掃作業員に任されることが多く、その作業品質を維持することは簡単ではありません。食品加工など高度の衛生管理が死活問題になる業種でも、必ずしも各拠点に衛生に関する専門家が配置されているわけではありません。レストランのオーナーの関心は魅力的なメニューを開発することで、食材の洗浄や廃棄物処理などのオペレーションの効率化は得意ではないことが多いようです。
またアメリカのレストランやホテル業界ではマクドナルドやマリオットのような大手による寡占化が進んでいます。そうしたビジネスは規模の経済によるコストメリットを実現するために、大手の専門業者を選び長期的な契約を結ぶことを望みます。
こうした中、Ecolabは衛生管理の専門家として、プロダクトからプロダクト+サービスへとビジネスモデルを進化させてきました。専門知識のない顧客に代わり従業員向けの衛生管理プログラムの導入や作業員のトレーニングをするサービスを提供します。最近ではデジタルツールを使い、冷蔵庫の温度管理や電子チェックリスト確認などコンプライアンス監視をリモートで行い、モバイルアプリのダッシュボードに表示するようなソリューションも提供しています。また医療施設で作業者の動きをモニタリングし、手の消毒が必要になったタイミングをブザーで知らせる電子バッジのようなシステムも開発しています。
2011年にはNalco社から54億ドルで水処理事業を買収し、大きな話題になりました。衛生と水は切り離せません。施設における衛生管理に水処理に関するソリューションを加えれば、より多くの価値を顧客に提供できるという判断のようです。
Ecolab では、水、エネルギー、ロス(廃棄)、衛生状態、設備稼働率などを全体的に捉え、改善計画の実行と定量的なインパクトを見積もるコンサルティングプログラム「eROI」を提供しています。IoTを使って設備の使用状況を監視し、予防保守などを行うことは古くからありますが、ビジネス全体からみたゴールの設定とその達成状況のレポーティングまで行うには、テクノロジーに加えて顧客ビジネスの深い理解が必要です。結果として、Ecolabが顧客のビジネスゴールの達成を支援するパートナーとして認められることは強力な差別化につながるでしょう。