(13) DX事例紹介 6 - HP Inc.
今回はHP Inc. を取り上げます。
HPInc.の母体となったヒューレット・パッカード社は1939年創業のアメリカのハイテク企業の草分けです。ビル・ヒューレットとデビッド・パッカードがビジネスを始めたガレージは「シリコンバレー発祥の地」としてパロアルト市の名所になっています。
同社は2015年にHPEnterpriseとHP Inc. (以下単にHP)に分割されました。HP はPCやプリンターを販売する事業を継承し、PCではLenovoに次いで世界第2位、プリンターでは世界トップのシェアを持っています。
PCは典型的なモノ売りビジネスです。他社が提供するCPUとソフトウェアで性能が決まってしまうと、後はコストの勝負になります。その制約の下、どうやって付加価値を出し差別化していくか。多くのハードウェアメーカーが抱える悩みが典型的に現れています。
こうした中、HPは2016年にDaas (Device as a service)*オファリングを始めました。Daas契約をしたユーザーは、PCなどの機器を所有することなく、機器のセットアップや障害対応、交換や更新などを含めたサービス全体への対価を支払います。契約は一台あたりの定額制です。Daas市場は今後年率55%程度増加していくという予想もあります。新型コロナによるホームオフィスの普及はこれを後押ししています。
しかしながら、モノ売りからサービスビジネスへの転換は簡単には行きません。自社内のビジネスモデルの変革も必要ですが、同時に重要なのは、実際にサービスを売って提供するチャネルパートナーの変革です。HPは全世界に25万のパートナーを持ち、売上の80%がパートナー経由です。
HPは2020年にAmplifyと言う名前の新しいパートナープログラムを発表しています。それによると、次の3つの指標でパートナーが評価されます。ケイパビリティとコラボレーションが新たに加わっています。
パフォーマンス(売上などの従来のKPI)
ケイパビリティ(デジタル技術を活用した斬新な顧客経験の提供)
コラボレーション(HPとの市場データの共有)
HPはデジタル化・サービス化のトレンドを理解しているパートナーに投資を求め、その見返りとしてトレーニングなどの支援とインセンティブを与えます。
また今年になってAmplify Impactという多様性と持続可能性にフォーカスしたパートナー向けプログラムが発表されました。パートナーはこれには無料で参加可能で、HPはパートナー自体が持続可能なビジネスに移行したり、持続可能性に関係するビジネス機会を発見するためのトレーニングやマーケティングツールを提供します。これは人々の社会問題への関心が高まりにおけるHPエコシステムの差別化戦略として捉えることができます。DXの目的の一つに持続可能性の向上を取り上げる企業は少なくありません。
* 注)一方で、アマゾンやマイクロソフトはDesktop as aservice(これもDaasと略される。VDI=仮想デスクトップのクラウド版)に乗り出しています。こちらはクラウド上にホスティングされるソフトウェアの管理に特化しています。セキュリティへの関心も後押しして、これらのサービスを採用する企業は増えています。