(12) DX事例紹介 5 - フィリップス
今回はオランダ発のPhilips(フィリップス)社を取り上げます。
Philipsは1891年に照明器具ビジネスから始まり、GE、シーメンス、日立製作所などと同様に「コングロマリット」と呼ばれる多事業展開で成長をとげてきました。一時は家電、半導体、ヘルスケアを主軸にしていましたが、家電と半導体事業において競争が激化し、近年はヘルスケア事業に集中する戦略に切り替えています。
デジタル変革の波は、ヘルスケアには他の業界より遅れて到達しているようです。その理由は医療が人間の生命に関わる重大な産業であり、関係者が新しい取り組みに慎重であること、規制産業であり変更には法律などの整備が必要なこと、政府・保険会社・製薬会社・医療機器メーカー・病院・医療技術者など大きな影響力を持ったステークホルダーを抱えていること、などが挙げられます。
一方で、毎年増加する医療費、高齢化、医療労働者の不足などの問題から、利用したサービスに対する支払いから、結果(アウトカム)に対する支払いへと、課金体系へのシフトが起こっています。そのためには医療コストと実際の成果を定量的に捉える仕組みの構築が必要になります。
また人々の健康意識の高まり、病院の電子化、機器のスマート化、デジタルネィティブ層の台頭などの流れを受けて、人々の関心が病気の治療から生涯に渡る健康維持へと移り、医療・健康に関係する企業にマネタイズのチャンスが生まれています。
家電の消費者ビジネスと、MRIやCTスキャンなどの医療機器ビジネスを持っているPhilipsがこのエリアに商機を見出したのは当然かも知れません。冒頭上げたコングロマリットのGEとシーメンスも医療機器は持っていますが、消費者との接点は強くありません。
Philipsがヘルスケア+デジタルに舵を切ったのは、2011年に生え抜きのFrans vanHoutenがCEOになった時から始まります。彼は同年にアメリカでスタートアップやEDSやCitibankのデジタル部門を経験したJeroen Tas*をCIOとして(後にChief Innovation and StrategyOfficer)採用しました。2013年にはPhilipsElectronics からPhilipsに名称変更をします。
Philipsが注力しているビジネスの一つに、病院向け医療機材のマネージドサービスがあります。病院は医療機器のユーザーですが、その管理はコア業務ではありません。日々進化する医療テクノロジーをフォローし、適切な機器を調達し管理することは病院にとって大きな負担になります。そこでPhilipsは病院と長期(10年以上)の包括契約を結び、ICUなどの施設のデザインからデータ統合、機器設置・保守、使い方のトレーニングなどを、他社の機器を含めて請け負います。病院とPhilipsは共同でコストや使用率などのKPIを設定しモニターします。
当然課題もあります。機械がスマート化するにつれて、医療におけるソフトウェアの役割が重視されています。例えばアメリカではFDA(食品医薬品局)によるSAMD(software as a medical device)の規制があり、それに合わせつつスピード感を持って開発を進められるか。保守的な医療関係者にデジタルのメリットをどう教育していくか。さらに自社の営業部隊にソリューション販売のノウハウを持たせること。これらはヘルスケア業界のDXに共通する課題です。
*2021年7月からAWS (Amazon Web Service)でヘルスケア業界を担当しているShezPartovi が新しいCIOに就任すると発表されています。こうしたデジタル企業と従来型企業の間の人材交流はDXが普及するにつれて日系企業でも当たり前になっていくのではないでしょうか。