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(11) DX事例紹介 4 - シスコシステムズ

今回はネットワーク機器大手シスコシステムズ(シスコ)を取り上げます。 

シスコは1984年、スタンフォード大学の研究者たちによるスタートアップとして始まりました。主力製品はルーター・スイッチなどのネットワーク機器です。コンピューター・インターネットの発展とともに拡大を続けています。IoTという言葉が普及する以前にIoE (internet of everything)を提唱し、スマートシティやIndustry4.0の普及にも力を入れています。 

同じシリコンバレーのハイテク企業でも、ハードウェア企業とソフトウェア企業ではかなりカルチャーが異なります。筆者の経験の範囲では、シスコは高マージンの「箱売り」で成長してきた社員に優しい保守的なカルチャーを持っています。ハードウェア企業の特徴として販売チャネルは外部パートナーに依存し、一部の大手顧客を除いて最終顧客との接点は強くありません。結果的に顧客経験よりは製品のスペックの向上に優先順位が置かれがちです。それに比べてソフトウェア会社はダウンロードによる直接販売が主流ですし、誰が何をどのように使っているかをクラウド経由でモニターし顧客と接点を保ち続けることができます。 

キャタピラーのケースでも触れましたが、こうした組織カルチャーとチャネルパートナーの変革はハードウェア企業にとってDXを成功させる上での最大の課題かも知れません。 

シスコにおいて、ハードウェア中心のビジネスからソフトウェアへの移行を明確に打ち出したのは、2015年に内部からCEOに抜擢されたChuck Robbinです。彼は2017年に、2020年までに売上の30%をソフトウェアにするというゴールを打ち出しました。2020年の実績は29%だったのでほぼ達成されたと言えるでしょう。また2020年4Qにおいて、ソフトウェア販売の78%はサブスクリプション方式だったと発表してます。 

ソフトウェア化の主軸となっている製品は2012年に買収したMerakiです。Merakiはシスコ製ハードウェア(Wifiアクセスポイント他)と一緒になって、クラウド経由で複数ネットワークを一元管理できるソフトウェアを提供します。そんなの当たり前、と感じられるかも知れませんが、Meraki以前はネットワークのスペシャリストがオンサイトで設定変更をしたりトラブルシューティングが必要でした。料金体系は機器あたりの月額定額制です。 

顧客はハードウェアの性能や安さを買うのではなく、ネットワーク管理の容易さやそれによって達成できる稼働率の向上に価値を見出し、その価値を受けるために継続して支払いを続けます。シスコは販売後も顧客との関係を維持し、アップセルやクロスセルで売上を増やすことができます。チャネルパートナーは、顧客が望めばシスコソリューションを使ったサービス(ネットワーク運用のアウトソーシング)を提供することができます。 

こうした動きはDellやHP Incなどの他のハードウェアメーカーでも見られます。Daas (device as a service)やNaas(networking as a service)など、顧客に対してモノではなく、サービスを提供するビジネスモデルへの進化が進んでいます。