(10) ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)の高度化
米国ではコロナ禍によって、労働環境や労働者の意識が大きく変わりました。飲食業やホテル・旅行業などで人材の大量の解雇・離職が発生しました。企業はコロナ後の再雇用を図っていますが、以前と同じ賃金や労働条件では人々は戻って来ないようです。ホワイトカラーの間ではリモートワークが定着しました。若者を中心にワーク・ライフバランスへの関心が高まり、より柔軟な働き方が求められるようになっています。物理的な店舗が縮小し、Eコマースとデリバリービジネスが急拡大しました。
こうした中で、先進的な企業はデジタル化で人材不足への対応と競争力の向上を図っています。これはコロナ前から問題になっていたプログラマー、クラウド技術者、データサイエンティストなどの専門職の不足をさらに悪化させています。
デジタル化によって一般職に求められるスキルも高度化しています。たとえば営業・マーケティング職ではデジタル広告の効果をリアルタイムで測定し対策を打つなどのスキルが重要になっています。製品開発でもモバイルアプリとの連携やクラウドを通じたサービス提供などの新たな付加価値が必要になっています。
これによる人材不足は、コロナ以前からある業務外注(ビジネスプロセスアウトソーシング・BPO)の流れを加速しました。BPOはデータエントリーやコールセンターなどの定型業務から始まりましたが、近年ではより高度な人材も外部から調達され始めています。リモートワークの普及はこれを後押ししています。社員とBPOの境目があいまいになっています。
BPOベンダーのサービス能力も進化しています。オフショア拠点のスキルレベルが向上し、西側諸国と同じ業務を低コストで請け負うことができるようになっています。例えばオムニチャネルと言われるような、電話・メッセージ・ウェブサイト・Eメール・SNSなどのツールを組み合わせて顧客を全方向から支援する技術においては、コールセンターで経験を積んだオフショア拠点(インド・フィリピン・メキシコなど)の方が米国本土より知見が豊富だとも言われます。これはかつて安価な製造業から始まったアジア諸国がいつの間にか技術を向上させ、米国を超える競争力を持つに至った経緯に似ています。
インターネットの普及によって、活用可能な人材プールが世界中に広がっています。各国がSTEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)教育に力をいれたことにより、デジタル人材に関する西側諸国のアドバンテージは小さくなっているようです。
今ではBPOの対象範囲は
■ バックオフィス(経理、ITなど)
■ フロントオフィス(営業・マーケティング・コールセンターなど)
■ 専門職(エンジニア、デザイナー、プロジェクトマネージャー、エグゼクティブなど)
など、リモートワークが可能なほとんどすべての職種に及びます。
どこまでを自社の社員でまかない、外部に依存するかの線引きは、一概には決められません。人件費の高い社員が定型業務を遂行している大手企業ではBPOによるコスト削減を見込める分野が多くあるでしょう。専門職を採用することが難しい中小企業ではBPOにより新しいノウハウを取得することが可能かもしれません。自社の業務は特殊だから外部業者ではできないという固定観念を捨て、BPOの可能性を検討することをおすすめします。人材調達やサービス改善の新たなオプションが見つかるかも知れません。