USJP INSIGHTSは、DXとAI、メガトレンド、VUCA時代の企業経営など日系企業のマネジメント向けの参考情報をお届けするニュースレターです。
メガトレンドDXとAI脱炭素ビジネスVUCA時代の企業経営
USJP INSIGHTS
VUCA時代の企業経営

(6) アジャイルな経営手法を取り入れる

ものづくりにおいて予測可能性は大切です。大量生産される製品の品質を担保するためには、確実に同じものが作れる生産体制が必要です。それを支える間接部門においても標準化が求められます。日本のメーカーには工場と同じようなやり方でホワイトカラー部門を管理するところもあるようです。例えば始業時にラジオ体操をやったりお昼休みに一斉消灯をしたり。もしかしたら大企業の新卒一括採用もその延長線上にあるのかも知れません。しかし VUCA の時代にはこうした画一的な統制はどこまで有効でしょうか。

製品ライフサイクルがどんどん短縮している現在、イノベーションを起こすことが企業の経営課題になっています。多くの経営者は、品質を担保しながらも環境の変化に素早く対応する組織のあり方について悩んでいるようです。スタートアップ時代には柔軟な動きができても、組織が大きくなるにつれて人々がリスクをとらなくなり官僚主義的になるのは日米同じです。比較的自由が効く中小企業でも過去の「成功の方程式」の呪縛にとらわれて次第に時代に取り残されてしまう危険があります。

そこで注目されているのがアジャイルな経営手法です。アジャイルはソフトウェア開発の手法としてすでに広く使われています。製品やサービスがソフトウェアと一体化(スマート化)して競争の場がソフトウェアにシフトする中で、その経験を持つ企業は増えています。例えばトヨタ自動車は Toyota Production System(TPS)という生産管理手法で有名ですが、その生産基盤の上にアジャイル的な考え方を取り入れた Toyota FlowSystem(TFS)を「組織の DNA」として採用することをうたっています。アジャイルはソフトウェア開発を超えて人々の行動変容の基盤として受け入れられています。

アジャイルな経営手法の特徴をいくつかご紹介します。

■ 製品・サービスの企画からリリースまでを少人数からなる1チームが担当する。チームに目標を与えそれをどう達成するかは任せる。そのために必要な型を作るのも壊すのもチームに任せる。さらにチーム自体も個人プレイにならないように内部で役割を入れ替える。

■ 目標の共有・直感的に伝わるストーリー作り。多様な個人の才能を活かし、かつチームごとのサイロにならないように全体の方向性を繰り返しコミュニケーションする。文書化に加えて頭に残りやすいストーリーとして語りやイラストを積極的に使う。コミュニケーションにおいて双方向の会話を重視する。

■ 高速プロトタイピング。試作品を早い段階で顧客やユーザーに使ってもらい、その結果を開発チームにフィードバックする。そのサイクルを短く何度も繰り返す。その際にユーザー対応者と開発者は同じチームに属し、時に役割を入れ替える。

アジャイルは大企業や先進企業だけのものではありません。むしろ中小企業の方が一人ひとりの責任範囲が大きくアジャイル的な考えを受け入れやすいでしょうし、社員が会社全体を考えることを重んじる日系企業には親近感があると思います。

アジャイル導入にあたっては、パイロットとして一つの新製品の企画からリリースまでの全責任を少人数のチームに移譲して社内での経験を蓄積するのが一般的ですが、やみくもにプロジェクトを立ち上げても失敗します。チームおよびスポンサーを社外トレーニングに送るなど十分な準備が必要です。アメリカにおいてアジャイルはデザイン思考やリーンスタートアップなどのコンセプトとも関連していて次世代のマネジメント手法として整備されつつあります。日本においても徐々に注目が集まりつつありますが、アメリカにいる地の利を活かし、日本本社に先駆けて取り組んでみてはいかがでしょうか。