(9) コロナ禍を乗り越えて成長した企業に共通する点とは何か
経営学の教科書によると、競争優位を確立する戦略は3つしかありません。1)圧倒的な低コスト、2)専門分野における卓越性、3)特定顧客へのフォーカス、です。米国で活動する日本企業にもこれは当てはまると思います。また、グローバル化が進む業界で活躍する日本企業にとっては、コスト以外の競争力を見つけることが特に重要です。
新型コロナウィルスによってグローバル経済は大きな打撃を受けました。しかしそのインパクトは企業規模によって異なっているようです。ある調査によれば、アメリカの企業規模でトップ10%の大企業は2019年から2020年にかけてほぼ同じ売上を実現しましたが、それ以外の企業の売上は平均で11%減少したそうです。中小企業では大多数が30%以上の売上減を経験しています。中小企業の中でも、先進的な大企業から学んで成功している企業とそれ以外の格差が広がりつつあるようです。アメリカ内では中小企業と考えられる日系企業にはどんな打ち手があるでしょうか。
まずは背伸びせずに、同じ規模の競争相手に勝つことを狙うことを推奨します。小さくてもDXプロジェクトをスタートまたは継続し社内での学びを深めます。よく現状変革における1.01 と0.99(1%増と1%減)の違いが例に出されます。その差は0.02に過ぎませんが、1年間365日継続すれば前者は1が37.8になり後者は1が0.03になります。
リーダーには、変革のためにあえて居心地の悪さを導入することが求められます。人間は自然と居心地の良さを求める性質を持っています。会社の中で「小さな幸せ」に満足しているマネジメント層はいないでしょうか。リーダーは絶えず揺さぶりをかけてチャレンジ精神を呼び起こす責任を持っています。変革のヒントはいつも外部からもたらされます。そのために内向きにならず、顧客・新入社員・若手等の意見を積極的に取り入れることが必要です。
外部から高報酬で人材を調達することが難しい日系企業ができることは、既存社員の再教育(リスキル)とデジタル投資です。例えばAIをどう使ったらいいでしょうか。新しいツールを入れる前にその機能と自社とのフィットを評価できる能力を社内に育てることが重要です。
一つ例を挙げます。ある日本のメーカーは、AIの社内知識ゼロから実務者向け勉強会を開催し社員から利用アイデアを募集しました。畑違いのハードウェアエンジニアたちが集まり、業務プロセスにAIを適用した場合の改善予測モデルの自社開発に取り組み、ある程度見当がついてから仕上げにコンサルタントを入れたそうです。その結果社内にAI技術者が育成され、コストや必要リソースの見積もりができるようになりました。今のゴールは社員全員がAIを使いこなすことだそうです。
コロナ禍はデジタル化を加速しました。一度デジタル技術を取り入れた中小企業はその後の受容速度も速くなるそうです。こうした企業は不況であっても人とデジタルへの投資を継続します。例えばリモートワークはコスト削減のためだけではなく、これをきっかけに社員の意識変革や社外リソースの使い方のイノベーションを起こすポテンシャルを持っています。クラウドソーシングやオープンソースなどはその例です。
不景気時に投資ができるかどうかで成長期にジャンプスタートできるかどうかが決まります。将来もコロナのような予測不可能な危機が起こるでしょう。それに備えてそこから回復局面における成長につなげるためには、財務体質の強化が必要です。自動化によるコスト削減やオンラインマーケティングによる売上増大など、デジタルはそのためにも欠かせないツールです。これもDXの一つの狙いです。