(8) 洋上風力発電のポテンシャル
脱炭素に向けて多くの国や企業が野心的なゴールを立てています。日本・米国・EU主要国・ブラジルなどの国は2050年までにカーボンニュートラルを達成すると宣言しました。中国は2060年、インドは2070年を目標に掲げています。
脱炭素の切り札になるのは再生可能エネルギーです。グローバルで温暖化ガスの25%が発電および熱利用(ガス暖房など)から排出されています。熱利用は電化することが可能ですので、これは全て再生可能エネルギーによる発電に置き換えることができます。
再生可能エネルギーの中で最も利用されているのは水力発電ですが、これは設置できる場所が限られています。したがって世界的な脱炭素のためには風力・太陽光による発電の急速な増加が必要です。現時点ではどちらにおいても中国が世界の発電量のトップを切っており、米国がそれを追っています。米国政府は2050年までに再生可能エネルギーの総発電量に占める割合を21%から42%に倍増するという見込みを立てています。そのほとんどは現在12%を占める風力と太陽光に期待されています。
どちらも日本企業にとって大きなビジネスチャンスですが、今回は特に洋上風力のポテンシャルについてご紹介したいと思います。
歴史的に洋上風力は遠浅の海が広がる欧州を中心に発達してきました。特に北海油田を抱える北ヨーロッパでは海底地盤調査、資源開発、建設などを請け負う巨大エンジニアリング企業と、ブレードとモーターなどの部品を作るメーカーが協力し、経験値を積んでいます。米国では東海岸を中心に総容量で2030年までに発電量30GW(ギガワット)を超える洋上風力プロジェクトが進行中です。現在の最大級の風力タービンは1基10MW程度ですので、おおよそ1万基を洋上に建設することになります。これは1000万世帯分の電力をまかなえる規模です。
米国で現在稼働中の洋上風力の容量が0.1GWに満たないことを考えると、これは極めて野心的な計画と言えるでしょう。
いろいろな予測はありますが、各国がカーボンニュートラルに真剣に取り組めば、この市場は今後30年に渡って年率15%から20%の伸びが期待できます。圧倒的な資材不足、人不足、資金不足が予想されます。新規参入が多い環境では経験に高い値段が付きます。
欧州と米国だけではありません。世界的な需要増を見込んで、欧州勢、米国勢、中国勢、日本・韓国・インドなどのメーカーがしのぎを削っています。技術開発は当然ですが、地盤や海流調査、ファイナンシング、契約、プロジェクト管理、運転と保守(O&M)など、21世紀にふさわしいグローバルなビジネス環境で貢献できるスペシャリストが生き残るでしょう。
洋上風力にはいくつかの特徴があります。
地上より安定して強い風が得られる。景観や環境に左右されず効率のいい巨大風車を設置できる。
地上と異なり、夜間でも風速が大きく下がらず需要の高い時間帯の発電量が大きい。
世界的に大都市は海に近いところに多く、送電ロスが少ない(米国では陸上風力は中部に集中しており、そこから消費地への新たな長距離送電網が必要となる)
さらに次の点は日本企業の強みを活かせるのではないでしょうか。
■ 軸受や発電機などの機械部品や、ブレード用の軽量強靭なハイテク素材など日本企業の強みを活かせる
■ 日本の造船・橋梁・鉄鋼など、インフラの基礎技術を活かせる
■ 日本は洋上風力の先端技術(浮体風力など)を開発するために好立地
■ エネルギー自給の高まりを受けて海洋国アジアを中心に新たな需要が期待できる
ただし、今までのように国内生産・輸出モデルではなく、現地でのエンジニアリング能力と最終組み立て地に近いところでの生産が要求されます。日本人社員だけでビジネスを完結することはできません。海外法人社員に加え、多くの協力会社との連携が必要になります。ほとんどの場合、現地会社への出資か提携が出発点になるでしょう。
エネルギーは浮き沈みの激しいビジネスです。再生可能エネルギーにもバブル的な一面があると思います。しかしそれを見極める力を他から借りてくることは難しいのではないでしょうか。まずはトライして経験値を積むことが肝心です。日本から勇気ある経営者や投資家が現れることを願っています。