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(7) ネットフリックスがなぜハリウッドの老舗スタジオに勝てるのか

ネットフリックスは1997年にDVDレンタルからスタートし、動画のストリーミング配信へ、さらにコンテンツ制作へとビジネスを進化させています。それぞれ全く違ったノウハウが必要なビジネスですが、なぜ新興企業のネットフリックスが既存企業を上回るパフォーマンスを出すことができるのでしょうか。

ネットフリックスの強みとしては次のようなことが言われています。

ネットフリックスはディズニーやHBO(ワーナー・ブラザーズ)と違ってコンテンツ資産ゼロからスタートしました。その代わりに定期購買(サブスクリプション)のユーザーとその視聴データを武器に戦うことができます。優れたストリーミング技術、ユーザー利便性、ユーザーを飽きさせないシリーズ化のノウハウで動画視聴の習慣化を狙います。

有名なのがAIを使ったリコメンデーションエンジンです。視聴者の視聴履歴から好みを分析し、次に興味を持つであろうタイトルを表示します。

コンテンツ制作においては膨大なデータ分析を通じてストーリーを最適化し、リリースする前にヒットする確率を高くしています。シリーズ途中での軌道修正もできます。こうしたリアルタイムなデータによる意思決定はハリウッドやTV局では困難です。

近年ではグローバルな観客動員で成功しています。製作国(オリジナル言語)と視聴国(吹き替え)の組み合わせで収益の最大化を狙います。例えば日本制作アニメの視聴者は日本よりアメリカとフランスを足した方が多いそうです。最近では韓国制作の「イカゲーム」が世界的なヒットになりました。

 しかしネットフリックスの最大の競争優位性は組織文化だと言われています。「自由と責任」をスローガンとしています。創業者の一人はこう書いています。「リーダーの役割は、あの山のてっぺんで来週会おうとチームに呼びかけること。チームに進捗報告をさせたり経路や装備のルールを守らせることではない」

望ましい行動を指定しそれを守らせるのではなく、目的(責任)を示して後は個人の判断に任せます(自由)。ネットフリックスには経費規定も休暇規定もないそうです。ハイパフォーマンスの社員が互いに尊敬しあいながら目的達成のために協力します。そこには社内政治や官僚主義の入り込む余地がありません。ネットフリックスは、業界最高の報酬と自由の見返りに業界最高のパフォーマンスを社員に求めます。Aレベル社員だけが生き残り、Bレベル社員は容赦なくクビになります。

ネットフリックスは極端な例ですが、日系企業がそこから学べることはあるでしょうか。社員が求める報酬と安定と成長の適正なバランスは社員ごとに異なりますし、同じ社員でもキャリアの間に変わるものです。日系企業は概して報酬や成長よりも安定を重視する企業文化が多いという気がします。それ自体は悪いことではありませんが、成長を志向しない組織はやがて衰退するリスクを持っていると思います。ネットフリックスの登場によって、有名俳優や監督などのアセットを抱えたハリウッドのスタジオがテクノロジーの戦いに引きずり出されました。VUCA時代では、少数のプレイヤーが寡占する成熟産業にもこうしたディスラプターが現れる可能性が増えています。