(32) 日本企業米国本社の機能
まずは日本企業の北米進出の歴史を簡単に振り返ります。
1980年頃まで:輸出型ビジネスと沿岸都市への拠点設立
・日本の商社やメーカーは、日本で製造した製品をアメリカで販売するために現地法人を設立。
・物流機能や駐在員の生活環境を重視し、ロサンゼルスやサンフランシスコなどに現地法人を設立。
2000年頃まで:円高と現地生産の拡大
・円高や米国政府からの要請により、自動車業界を中心に多くのメーカーが中西部や南東部に製造拠点を設立。
・大企業は世界市場を3〜4つの地域に分割し、米国ではニューヨーク、ロサンゼルスなどの販売会社に米州地域統括機能を設置。
・多くの日本企業は顧客やサプライヤーへのアクセスや生産コストを考慮して立地を選定。
2000年以降:多様な産業の進出と拠点の分散
・自動車・電機以外の日本企業の進出が増える。
・企業買収を通じた市場拡大が活発化。
・物流の外部委託が進み、沿岸都市に本社を置く必要性が低下。
・ITシステムの発達によりグローバルでの情報共有が容易になり地域統括会社の重要性が低下。
・業界ごとの集積地に拠点を設ける日本企業が増えた結果、全米各地に日本企業が展開。
そして、コロナ禍により企業の拠点戦略に大きな変化が生じました。ハイブリッドワークの普及により、大都市中心部に事務所を賃貸する企業の多くがスペースを縮小しました。しかし、そのわずか1-2年後にはReturn to Office (RTO)がトレンドとなり、現在は週4日のオフィス勤務を義務付ける企業が増えています。
さらに大規模言語モデル(LLM)を始めとするAI技術の実装が始まり、間接部門社員に求められるスキルが変わり始めています。
米国本社の移転は数十年に一度しかないイベントかもしれませんが、本社機能の効率改善は継続的に取り組むべき課題です。上記の変化を踏まえると、日本企業がどこに、どのような米国本社機能をもつべきかは各企業の置かれた状況によって異なり、単純な答えは存在しません。従来の拠点選定の要件である人材プール、人件費、不動産コスト、法規制 などは引き続き重要ですが、今後は以下の視点も考慮すべきでしょう。
1.従来型の本社事務所の必要性
当社クライアントには米国本社機能を分散している企業があります。CFOは米国本社で勤務しているが、財務経理社員が米州各地の拠点で業務を遂行している企業、各現地法人に勤務している社内弁護士がグループ全体の法務作業を分担し、本社法務部門として機能している企業などです。このようなバーチャルな間接部門が効率的に機能するには、有能なリーダー、コミュニケーション力の高い社員、業務責任の明確な定義などが必要です。適応できる日本企業は増えていると思います。
2.米国本社のミッション
米国本社の役割が単なる間接機能の提供か、それとも事業戦略の司令塔かによっても、求められる組織や人材が大きく変わります。事業会社に経営企画、財務、人事、法務、リスク管理などの機能を提供するシェアードサービス型の場合は、コストが低く離職率の低い組織作りが求められますし、戦略推進型の場合は創造性と柔軟性を持つ人材が求められ、変化を前提とした組織運営が必要となるため、立地選定にも大きな影響を与えます。
3.集中化によるメリットとデメリット
シェアードサービスを事業会社に提供する日本企業の米国本社は、機能の一元化により作業効率を向上させ、リスクを削減していると考えています。一方、サービスを受ける事業会社側からは「柔軟性が低く、負担金が高い」との指摘も聞こえます。新しい組織や役職を作ることで付加価値の低い仕事が作られることもよく見ます。
4.内製と外注
外注化することでコスト削減が可能と分かっていても、余剰人員の処遇が課題となり、外注化が実現しないことがよくあります。そんな中で本社機能の移転は組織変更や人材削減の好機となります。当社のクライアントにも本社機能の移転と同時に非コア業務を外注した企業があります。
5.自動化される業務
AIの進化により法務、税務、ITなど従来は高度な知識が必要と考えれていた業務の自動化が進んでいます。簡単ではありませんが、AIがさらに導入された5年後、10年後の組織の人材ニーズを想定しながら米国本社の組織体制を構築する必要があります。