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(31) 米国におけるBPOトレンドと日系企業への影響

なぜ米国ではBPOが人気なのか

米国は世界最大の単一市場です。また最新のテクノロジーの利用とイノベーションがどこよりも速く実現する国でもあります。一方で人件費や物価が高騰しており、企業経営者にとっては成長戦略と同時にコスト管理が焦眉の課題になっています。さらに経営の透明性に対する各種規制も進んでいて企業は次から次へと対応を迫られています。

こうした課題に対して米国企業が早くから取り組んできたのは標準化、IT化、そしてアウトソースです。どれも先進的な大企業から始まりましたが、今ではほとんどの米国企業で当たり前の経営手法になっています。米国がこれらの施策において日本に先行している理由の一つは企業間の人材交流の違いです。日本では物品やサービスを大量に購入する大企業を頂点とした企業間序列が明確で、企業間の人材移動は限られています。それに対し米国では売り手と買い手の関係がより平等で、売り手と買い手、さらにはライバル企業間の人材の移動が盛んです。その結果として、業界内でノウハウが共有され、ベストプラクティスが普及され、事業規模に関わらずIT化やアウトソースを実行することが容易になっています。

アウトソースの中で、企業における特定業務を丸ごと外注化することをBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)と言います。BPOには次のようなメリットがあります。

コスト削減およびコントロール

BPOベンダーは大規模オペレーション(規模の経済)、高度なIT、低コスト国の労働者などを利用することで、クライアント企業より安く安定した業務サービスを実現することが可能です。今後も米国の人件費は上昇を続けると考えられ、社内業務の改善だけで他社とのコスト競争に勝つのは困難でしょう。

業務の高度化とデジタルトランスフォーメーション

BPOベンダーは業務の専門的な知識やノウハウを提供することができます。例えば最新の法規制への対応であったり、Eコマース対応やクラウドを通じてのデータ共有など、自社では初期コストが高くてあきらめていた機能がBPOを通じて利用可能になります。

組織のスリム化

地方自治体や公共サービス事業者など、職員の大量解雇が容易でない組織は、業務を段階的に外注することで、組織をスリム化し、生産性を維持しています。終身雇用を基本とする日本企業の米国法人でも社員の業務をBPO化することでコスト競争力を維持している企業があります。

競争優位性への集中投資

競争優位に直接関係しない業務をアウトソースすることでこれまで組織の運営に費やされてきた経営者の能力を製品開発や顧客サービスなどの重点領域に集中させることができます。

世界展開

海外における製造や販売のノウハウやサービス拠点を持つBPOを使うことでいち早く海外のマーケットに進出することが可能です。

もちろんBPOはいいことづくめではありません。サービスの品質低下や硬直化、自社ノウハウの喪失、情報漏洩、予期せぬコストの発生、ベンダーロックインなど、予測される課題を解決する必要があります。しかしよく考えれば似たようなことは自社でも起こり得ますし、米国においては長年の経験を経て、BPOベンダー・クライアントともに対応策のノウハウが蓄積しています。経験のあるアドバイザーを利用すること、現実的な計画を立てること、ガバナンスを精緻化すること、ベンダーとの関係作りに投資することなどで対応が可能です。

近年のBPOの動向として、小規模クライアントに向けたサービスの充実が上げられます。大規模BPOベンダーが新マーケットに乗り出しているのと同時に、小規模オペレーションに特化した低コストBPOベンダーが登場しています。この背景にはクラウドテクノロジーの発展とともにコロナパンデミックを経て業務オペレーションを見直す企業が増えたことが挙げられるでしょう。またアメリカならではのスタートアップ企業に特化したBPOも現れています。EVや再生可能エネルギーなどのテクノロジー企業では顧客対応やデジタルメディア対応のリソースを持っていません。そうした新興企業の急成長を支えているのもBPOです。

最後にBPOを検討する際の注意点に触れてみたいと思います。ユーザー企業からすれば一番の関心事はベンダーのコストと信頼性だと思いますが、それ以上に重要なのはBPOの狙いを明確にすることです。以下の例を考えてみましょう。

  • ルーチン顧客対応 vs. 最重要顧客サービス
  • コンプライアンス研修 vs. 後継者育成
  • ウェブサイト維持 vs. ブランド戦略と発信

顧客対応、人事、マーケティングという大雑把な括りでBPOを考えてしまうと、何のために外注し、逆に外注せず自社にノウハウを蓄積することでどのようなメリットがあるのかを見失ってしまう危険があります。コストが安くなることと引き換えに顧客接点を失ったり、自社でないと無理と思っていた業務が実はBPOの方が顧客満足度に貢献するなど、BPOを導入する上で得られる多くの発見があります。最初から思い込みで計画を立てるのではなく、自社の業務のマッピングと仮定の洗い出し、検証方法などを詰めていくことで、単なるコスト削減ではなく企業変革につながるプロジェクトになり得ます。先進的な米国企業はBPOを通じてコスト削減とトランスフォーメーションを同時に成功させていると言えるのではないでしょうか。