(31) AI時代において望まれる人材とは
頭では理解しているつもりでも、実際に現実になってみると驚くしかないということがあります。ここ数年いや数か月のAIの進歩はまさにそれを地で行っている感じがします。アメリカではAIが書いた、またはAIが作成を手伝ったと思われるメールや資料を目にしない日はありません。プログラムコーディングはもはや人間の仕事ではなくなった、と言う人も出てきました。経理や物流のような業務においてもAIが人間を補助することが増えています。
AIが人間の仕事を奪っているように見える今、企業はどういったスキル・能力に着目して人材を補充・強化したらいいのでしょうか。よく言われるのは次のようなことです。
- 情報科学・コンピューターリテラシーのようなAI利用の基本になる知識。業務に関連する情報の特性を理解し、統計的な処理を行うスキルです。
- クリティカルシンキングや問題解決能力。AIが出してくるデータを批判的・総合的に解釈し業務上の判断を行ったり、現象から根本原因を突き止め問題解決の方法を構築する能力です。
- ビジネスモデル創造力。自社が顧客に提供している価値の本質を理解し、変化する環境に合わせて組み替える能力です。
- EQ(共感能力)やコミュニケーション、リーダーシップのようなソフトスキル。ビジネスが成長するために必須で、かつAIで置き換えることが難しいスキルです。
要約すると、A)AIを使うためのテクニカルな知識、B)現象や情報を分析・総合するスキル、C)ビジネスモデルを理解し構築するスキル、D)人間を動かすソフトスキル、の4つと言えるでしょう。
と言っても、このような高度なスキルを持つ人材はどこの企業からも引く手あまたで、採用は困難だというのが現実だと思います。しかしながら、全員がAIエクスパートになる必要もないしイノベーターや社内アントレプレナーになる必要もない、というのがもう一つの現実です。ビジネスには安定と革新のバランスが必要ですが、それは企業によって異なります。例えば製造業ではより安定が重視され、IT企業であれば革新が重視されるでしょう。経営者および人事部門には企業の特性や課題に合わせて適切な人材を配置およに育成していくことが求められます。それ自体は従来とは変わりないですが、そのスピードが今までなく速くなっています。
我々は上記に加えてもう一つ重要なスキルがあると考えます。それは、E)自ら学習するスキルです。これには自分を成長させようとする意欲、情報収集、自己分析、学習計画立案などが含まれるでしょう。AIはここでも役に立つと考えられます。従来スキルは座学やOJTを通じて身に付けるものでしたが、AIが本や人間の代わりになって問題を出したり質問に答えたりすることができます。AIは人間の教師や先輩と違って24時間アクセス可能でしかも個人のレベルに合わせて柔軟に対応ができます。
経営者として長期的に注力するべきことは、「E)自ら学習するスキル」を社員が伸ばせる環境を作ることではないでしょうか。なぜなら、それが他ののスキル習得の原動力になると考えられるからです。具体的にはスキルを習得する機会や手段(AIを含む)を与える、率先してスキルアップを図る社員を評価する、新しいスキルを試す機会を与える、などです。
このような学習するスキルを重視する考え方は採用方法に影響を与えるだけではなく、企業風土の改革にもつながるでしょう。新入社員は多かれ少なかれ新しいアイデアと視点を持っていますし、古いやり方に対する執着がありません。それを活かすも殺すも企業のリーダー層の対応によります。AI時代で最も変化を要求されるのは、新しく採用する人材ではなく、既存のやり方に縛られがちな既存社員の方かも知れません。