(30) DXを加速させるノーコードツールとは
ノーコードツールの現在位置
このマーケットは年率30%ぐらいの爆発的な勢いで拡大しています。その背景にはAI・DXにけん引されたIT技術者の需要に供給が追い付いていないこと、IT技術者のコストが高騰していること、そしてツールが進化して、より簡単・低コスト・短期間にデジタル化が実現できるようになったことがあります。さらに米国を始めとして欧米ではクラウド上で簡単に利用できる業務ツール(SaaS)が普及し、それらを組み合わせて使うノーコードツールが人気を得ています。
体験談
ノーコードツールにもいろいろな種類がありますが、業務自動化で最も普及しているツールの一つであるMake(Make.com)を実際に使って、アドバンスコースまで一通りトレーニングに参加してみました。その感想を共有します。
どういうものか?
Makeにログインすると、業務ごとに「シナリオ」を作成することができます。一つのシナリオの中には「モジュール」という大きな機能の塊があり、それらを矢印で繋いで連携するデータを指定することで情報の流れを定義します。具体的にはGmail、ChatGPT、Sales Force、Google Sheetなどをモジュールとして画面上に呼び出して使います。試してはいませんが、SAPやOracleなどERPとの連携もモジュールとして利用可能のようです。
Makeは業務自体を作成するものではないので、ユーザーが普段目にする画面設計や帳票設計はできません。その代わりユーザーの知らない内に、今まで手作業でやっていたデータの取り込みや他システムへの登録が終わっているようになります。
どの程度簡単に使えるか?
さすがに何の前提知識もなくて使えることはありません。まず、基本的なコンセプトやモジュールの動作を理解した上で、詳細なデータ操作の方法を覚える必要があります。難易度としては、エクセルで高度なグラフを作成するレベルに近いでしょう。プログラムの知識は不要ですが、API連携、データの正規化、ログイン認証などの高度な機能を実装するには、一定のIT知識が必要です。
何に使えるか?
既存のSaaS(Spotify, HubSpot, Slack, Gmail, Google Sheetなど数百種)とのやり取りが自動的にできるようになります。そうしたSaaSに依存するスタートアップや中小企業にとっては大きなメリットです。大企業の基幹システムを置き換えるようなことはできませんが、営業・マーケティング、経理、人事、顧客サービスなどでどうしてもシステム間連携に手作業が発生するような場合、Makeを使って自動化することができます。また新システムのコンセプト検証やアドホックなデータ収集にも十分使えます。例えばSNSから自動的に気になるデータを抽出してChatGPTに内容を評価させてGmailにアラートを送る、といったこともできます。
費用は?
機能が限られているフリーのアカウントもありますが、通常版は月額9ドルから利用することが可能です。複数のユーザーが同一ライセンスで開発されたコードを利用することは可能ですが、利用量が増えるとOperationという固有の課金単位にもとづく変動費が必要となります。それ以外に外部のAPIを使う場合は別途料金が発生する場合もあります。
AI時代にノーコードツールは生き残るか
実はMakeを勉強していて、これが一番気になりました。AIの進化はとどまるところを知りません。すでにプログラミングの分野では人間をしのぐ能力を持っていて、人間の指示に基づいてたちどころに動くプログラムを生成することができます。近い将来、まったくAIに頼らないプログラム開発はなくなると思われます。AIは当然ノーコードの開発も自動化できます。将来を予測することは不可能ですが、人間がコンピューターと融合するのはまだ先のことで、それまでは何らかの形で両者を媒介するものが必要になると思います。最近まではそれがプログラム言語でした。その後にChatGPTのようなLLMが出てきて、自然言語でコンピュータ(AI)に指示を出せるようになりました。しかし自然言語の特徴は曖昧性にあって、それに対するLLMの回答も曖昧なものになります。ビジネスシーンで明確な指示と間違いのない実行を担保するためには人間とコンピュータをつなぐために自然言語以外のものが必要になります。これから数年間はノーコードツールがこの「つなぎ」の役割を果たす重要なツールとして普及するかもしれません。
面白いことにプログラマーたちもノーコードを勉強しているようです。ビジネスユーザーが主体となってノーコードで業務を設計し、プログラマーがその足りないところを埋めるというような役割分担が当たり前になるかも知れません。