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(29) チャットボットをビジネスに活かすには

アメリカでコールセンターに電話し、長時間待たされた挙句問題が理解されなかったり解決しなかった経験を持っている人も多いのではないでしょうか。こうした利用者のサービス向上を狙い、チャットボットを使って顧客対応をする企業が増えています。以前に比べるとチャットボットの性能が上がり人間と遜色のない対応ができるようになったこともブームを支えているようです。従来のチャットボットはルールに基づいて決まり切った受け答えしかできませんでしたが、AI(LLM:ChatGPTやGeminiのような大規模言語モデル)と企業独自の知識ベースを組み合わせることで、人間と会話をしながら解決策を提示できるようになっています。

加えて日本に比べてアメリカの人件費が高いこと、問い合わせ対応に対する利用者の期待度がそれほど高くないことも普及を後押ししていると言えるでしょう。

チャットボットが人間とAIとの窓口になり、背後でAIが人間に代わって仕事を遂行する時代はすぐそこまで来ています。その点からも、企業全体として早いうちにチャットボットに慣れ、その利点や不都合な部分を掴んでおくことは重要です。

アメリカではすでに多くの企業がチャットボット構築のツールを提供しています。プログラミングなしで使えるLandbotやプラットフォームとして充実した機能を持つGoogle Diagflowなどがあります。それらの宣伝を見る限りいいことずくめのように見えるチャットボットですが、ビジネスの観点からはいくつかの懸念事項があります。利用者の満足度という点、さらに投資の優先順位という点です。言い換えれば、本当に利用者は満足しているのかが見えなくなる心配、チャットボット構築より先にするべきことはないのか、ということです。

経営者の観点からはチャットボットという手段だけにとらわれずに、利用者のニーズを総合的に捉えたサポート体制の整備が必要と言えるでしょう。利用者を顧客と定義した場合、顧客体験の刷新、顧客ライフサイクルを通じた価値の提供のような新しい視点も必要かも知れません。

以下のような考え方の整理方法が役に立つかも知れません。

利用者のタイプ
 ・コンピューターの扱いに慣れているか
 ・専門家か初心者か

求められている情報
 ・一覧性・網羅性が必要か単体の情報で十分か
 ・利用者に具体的な目当てがあるか漠然としているか
 ・重大な意思決定に関わるかカジュアルな問い合わせか

情報提供の方法
 ・音声か文字か
 ・PCかモバイル機器か

チャットボット以前には利用者には二つの問題解決方法がありました。一つは窓口や担当者ななどの相談相手を探して話をすること。もう一つは自分でコンピューターにアクセスして答を見つける方法です。前者のためにはコールセンターやヘルプデスクのような対応窓口、後者のためにはウェブサイトやFAQ(よくある質問)などがすでにあります。

一般にB2Bではチャットボットよりも洗練されたウェブサイトやFAQの整備の方が顧客満足度向上に貢献するかも知れません。売り手側も買い手側もも製品やサービスの専門家で、欲しい情報が明確なケースが多いからです。それでもチャットボットに優位性があるケースもあります。例えば以下のように即時性、対話性、モバイルアクセスが必要な場合が挙げられます。
 ・出荷状況などを即時・ピンポイントで提供する
 ・故障時の問題解決支援
 ・新規商談対応とスクリーニング
 ・製品納入後の満足度調査

こう考えるとチャットボットと従来型の情報提供の両方を使うハイブリッドアプローチが効果的ではないでしょうか。その場合は情報の蓄積と品質の向上、情報の最終責任者の明確化、情報提供の方法、チャットボットとERP(社内情報システム)の連携、チャットボットと人間の連携、データセキュリティなどについての検討が必要になります。まずは顧客向けではなく、社内向けに人事や経理のチャットボットを導入して経験を積むという方法もあります。いずれにしても定着には数年以上を要するプロジェクトになります。競合に先んじてのプロジェクト立ち上げをおすすめします。