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(26) 米国マクロ環境から考えるビジネス機会

2023年後半の米国経済はインフレ懸念が一息つき、多くのエコノミストが心配したハードランディングも起きずに新年を迎えられました。過去30年間ほとんど成長しなかった日本に比べると、米国経済は今後も成長を続け、世界中の意欲ある人たちに機会を提供するでしょう。今回は米国を取り巻く経済的・社会的環境をマクロ的な視点でとらえ、どのようなビジネス機会があるかを考えてみます。

1.高齢化の進展

マクロ経済に大きな影響を与える人口動態ですが、アメリカでは移民のおかげで今後も人口は増加すると予想されています。ただしそれを上回る勢いで高齢化が進み、現役世代がより多くの高齢者を支える社会になります。

ビジネス機会:ウェルネス・ヘルスケア 例えば2022年からスタートしたAmazon Clinicは保険適用外ですが、24時間予約なしで医者とビデオチャットができ、医者による処方箋の作成も可能。高齢化に伴い増加する医療ニーズを効果的にマネタイズできる仕組みの一つです。

2.ハイブリッドワークの定着

コロナパンデミックをきっかけに人々の働き方は大きく変わりました。ITの進化がリモート勤務を容易にしたことに加え、人々の関心が仕事よりは生活や社会的使命のようなものに移っているという調査結果があります。収入が減ってもリモート勤務を選択する人が増えているようです。仕事を実行する場所がホームオフィスやサイバー空間に移ることで、社員が集まるオフィスの役割は大きく変わっています。

ビジネス機会:オフィスのリノベーション・リパーパス 先進的な企業はオフィスのデジタル化・多機能化・多目的化・ウェルネス等に多くの投資をしています。魅力的なオフィスを作ることで人材獲得競争に勝つと同時にイノベーション力の向上や業務のスピードアップを図っています。最近では、ウェルズファーゴ銀行がマンハッタンで働く2300人の事務所を一か所に集約する先進的なオフィスの計画を発表し話題になりました。

3.電気自動車(EV)の普及

米国でEV というと今のところTeslaの一人勝ちの状態ですが、これからはBig3と海外メーカーによる本格的なEV参入が予想されます。EVと同時に自動運転などのソフトウェアやオンライン直販やサブスクリプションなどのビジネスモデルも洗練されていくでしょう。長らく中小型乗用車の分野で高いシェアを誇っている日本車メーカーはその地位を守ることができるでしょうか。

ビジネス機会:電池やコントロールユニットなどのEVの要素技術はまだ発展途上であり、業界地図はこれから二転三転する可能性があります。後続のメーカーやサプライヤーにもチャンスがあるでしょう。製造業以外ではではEVの特性を生かした自動車保険、車内エンターテイメント、カーシェアリング、リース、ガソリン車のレトロフィット、カスタム装備(パーソナリゼーション)などが考えられるでしょう。またEVの普及はEVのバッテリーを使った電力の需給調整(デマンドレスポンス)の可能性を広げます。家庭用太陽光発電の普及とともに電力の使われ方が一新する可能性があります。

電動化は二輪車、ATV(4輪バギー)、建機、農機、船舶にも浸透しつつあります。 

自然災害

世界的に今までは100年に一度と考えられていたような異常気象が10年に一度のように発生頻度が上がっています。米国ではカテゴリー4や5の巨大ハリケーンの発生頻度が上昇しています。他の異常現象としては、干ばつ、熱波、山火事、洪水、寒波、海水面上昇などが心配されています。

ビジネス機会:防災・減災のための環境モニタリング、早期警報システム、シェルター、備蓄品、災害保険、復旧サービス、医療サービスなど。 

インフラおよびエネルギー投資

米国の橋、道路、水路、送電網などのインフラの老朽化に対応するために、2021年に5年間で総額5,500億ドルを投資する法案が成立しました。同年には気候変動とエネルギー対策として7,830億ドルを投資することを含む法案も成立しています。

ビジネス機会:建設・エンジニアリング、原材料、複合材、建設機械、輸送機器、電子機器、風力・太陽光発電、グリーン水素、SAF(持続可能な航空機燃料)、原子力など。 

AI

AIのイメージを一新したChatGPTが発表されてから1年が経ちました。後続のChatGPT4.5や5が発表されるという噂もあります。簡単なチャットから、翻訳、要約、インターネット検索、プログラミング、マルチモーダル(テキストと画像の連携など)、その機能は進化を続けています。2024年にどのようなブレークスルーが起きるか全く予想がつきませんが、人間の意図を理解しその代理(エージェント)となってタスクをこなすAIが出てくるのはそう遠くない将来でしょう。

ビジネス機会:AIの影響を最も受けるのは低スキル労働者であると言われています。その中には小売り、飲食、セールス、カスタマーサービスなどが含まれます。一方で高度なプロフェッショナルである医者、弁護士、会計士、教師なども今までとは全く違った働き方をするようになるでしょう。AIを使った自動化・効率化サービスは大きなビジネスチャンスになるでしょう。一方でAIに代替される人材にカウンセリングを提供したり、リスキル・アップスキルの場を提供するサービスも増えるでしょう。 

常態化するリスクへの対応

2023年はロシアによるウクライナ侵攻に始まり、イスラエル・パレスチナ戦争で暮れました。戦争はいつかは終わるでしょうが、紛争の火種を消すことは難しそうです。結果的に食料やエネルギー価格は高止まりし途上国の人々の暮らしを圧迫するでしょう。米国はスーパーパワーとなった中国を警戒し、経済・貿易の面での対立も深まりそうです。またコロナに代わる新たなパンデミックが発生するかもしれません。これらはビジネス機会というよりは、経営者にとって今の世界のニューノーマルとして受け入れるしかない現実だと思います。シナリオ分析、サプライチェーンの複線化、代替品の検討、現地生産・調達の推進など、リスクへの対応が望まれます。