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VUCA時代の企業経営

(21) USJPの選ぶアメリカの2024年ビジネストレンドトップ10

1. ブルーステートからの人口流出

米国人は平均で5年に一度は引っ越しをすると言われますが、最近注目を集めてるのは東海岸と西海岸のいわゆるブルーステートからの人口流出です。それらの州は平均所得が高く、気候が温暖で、さらに自然にも恵まれているため、多くの人にとってあこがれの場所である一方で、住宅価格が高騰し若者には生活しにくい場所になりました。企業も高い人件費や厳しい規制を嫌い、より安価でビジネスフレンドリーな南西部や南東部に移転するケースが目立っています。多くの日系企業も本社機能をテキサスやジョージアなどに移しています。人口増は経済成長に直結します。今後の商機はそうした州にあるかもしれません。

2.オフィスワーク回帰

コロナ禍で普及したリモートワークから社員をオフィスに呼び戻す企業が増加しています。アマゾンは2025年1月から週5日のフルオフィス勤務を基本とすると発表して話題になりましたが、米国大手企業の多くはすでに週3ー4日のオフィス勤務を義務付けています。生産性の向上、人材育成、企業カルチャーの醸成などが理由として挙げられています。リモートワークの恩恵を知った社員の反発もありますが、極端な人材不足が解消された今は、企業の意向が優先されることが多くなっています。ベテラン社員が多く離職率の低い日系企業にはリモートやハイブリッドワークを継続している企業が多いようですが、それらのコストとベネフィットを再検討する時期かもしれません。

3.半導体投資の国際競争と投資の過熱化

電子機器の普及やスマート化に伴い半導体需要が急増し、大手半導体企業がテキサスやアリゾナで大規模な投資をしています。加えて米中の対立や国際紛争の影響を受けて、各国の政府も補助金などの支援をしています。米国政府は半導体の生産に390億ドル、半導体関連の研究開発に110億ドルの補助金を用意し、インテル、サムソン、TSMC、マイクロン各社に60-80億ドルの補助金を付与すると発表しています。多くの日本企業がアリゾナやテキサスに事業拠点を新設しています。

4.再生可能エネルギー関連投資の行方

トランプが次期大統領に選出され、再生可能エネルギー関連の投資の先行きに懸念が広まっています。トランプは選挙期間中に、バイデン政権下で成立したIRA(インフレ削減法、再生可能エネルギーへの莫大な投資を約束)をキャンセルすると発言しています。しかしながらすでに多くの投資が州レベル(共和党支持者の多いテキサスなど)で行われており、トランプ支持者であっても極端な巻き戻しは望んでいないようです。また新たな関税により中国からの部材や原材料が入手不可能になれば、逆に米国産品のニーズが増えることも予想されます。

5.データセンター建設ラッシュ

AIの高度化に必要なのはGPUなどの半導体機器と安定した電力、そしてそれらを管理するデータセンターです。不動産開発では数年前まで大手小売業者向けの物流センターが盛んでしたが、最近は土地が安く電力が安定して供給できる地域でデータセンターの建設が増えています。フェイスブックを提供するメタ社は世界最大規模のデータセンターをルイジアナ州に建設するため110億ドルを投資すると発表して話題になりました。グーグル、マイクロソフト、アマゾンもそれぞれデータセンターに投資しています。米国でデータセンターが集中しているのは、オハイオ、ジョージア、テキサス、バージニアなどです。

6.暗号資産(クリプト)のブーム再燃

今年1月にSEC(米国証券取引委員会)がビットコインベースのETF(上場投資信託)を認可しました。ビットコインはそれまでCoinbaseのような特別な取引所で現物を買うことしかできませんでしたが、金融商品になることで普通の証券会社を通じて間接的にビットコインに投資できるようになりました。さらに暗号資産に好意的と言われるトランプの再選を受けて、ビットコインの価格が初めて10万ドルを超えました。トランプはクリプトとAIのどちらに対しても政府による規制を緩和する方針を打ち出しており、金融とハイテクは機会と同時にリスクを抱え込むと見込まれています。

7.ソフトウェア事故の重大化

今年7月に世界規模で航空便の大量キャンセルや銀行システムの障害が発生しました。原因はサイバー攻撃ではなく、サイバーセキュリティの分野で大きなシェアを持つCrowdStrikeというソフトウェアのアップデートの不具合でした。米国デルタ航空は数千便のキャンセルにより5億ドルの損害を受けたとしてCrowdStrikeを提訴しました。しかし、同じシステムを使用していたユナイテッド航空やアメリカン航空では、早期でシステムを回復されたため甚大な被害は発生しませんでした。その結果、米国運輸省がデルタ航空の危機管理体制を調査しています。この事故は多くのシステムがネットワークで結ばれた社会では、小さな障害であっても社会システムに重篤な障害を引き起こすリスクがあり、危機管理体制が今までより重要という教訓をもたらしました。クラウドで動くAIがコントロールする未来社会のリスクの一面を見せてくれたと言えるかもしれません。

8.生成AIの進化

Open AIのChatGPT、グーグルのGemini、AnthropicのClaude、メタのLLaMAなどが競い合って進化するようになりました。基本にあるのは大規模言語モデル(LLM)というAIのタイプです。これによってコンピューターに言葉で指示を出せるようになったことは画期的です。LLMには言語のスキルに加えてインターネットに蓄積された知識を持ち、それをベースにあいまいな情報や非構造化されたデータを処理することができます。注意しないといけないのはLLMは人間のように振舞いますが、人間のような責任を持つ主体ではないということ、高い正確性や信頼性を必要とする処理にはそのまま利用できないことです。

9.AIコパイロットの登場

コパイロットは副操縦士という英語です。一番普及しているのはプログラミングの分野で、人間がコードを書いている途中でAIが提案をしたりエラーを指摘してくれます。すでにマイクロソフトワードやエクセルに組み込まれたコパイロットを利用されている方もいると思います。今は用途が限られていますが、AIがマルチモーダル(テキストだけではなく画像や音声を使う)になり、携帯電話やスマートグラスに搭載されれば、仕事だけではなく生活の至るところで人間がAIと一緒になって活動するようになるでしょう。進化するテクノロジーに社会がキャッチアップするのは大変そうです。

10.ディープフェイクの氾濫が社会にもたらす影響

AIによって本物と区別のつかない偽の画像や動画が作られるようになり、反社会的な影響が心配されています。有名人や政治家の偽動画が拡散したり、科学分野における研究データ、大学の試験やレポート、仕事における業績報告、などの捏造がニュースになっています。何が本当か分からない時代において、信頼をどう担保し醸成するのかについて一人ひとりが真剣に考えないといけないようです。