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(20) 進化する分業オプションへの対応

経済の発展は分業の発達と密接に関連しています。もし無人島で一人で暮らしていればすべてを自分で賄うことが必要ですが、都会に住む私たちは水汲みも火を起すことも狩りもせずに生きることができます。それぞれの分野の専門家たちに頼ることができるからです。分業は個人のレベルでも企業のレベルでも起こります。個人レベルでは経理や営業や研究開発などの職能ごとに分かれ、企業レベルでは販売業や製造業やサービス業などの業種に分かれています。さらにどの業種においても自社の「商品」をどう調達するかといういわゆるサプライチェーンにも分業のオプションがあります。

今では一社で原材料の調達・完成品生産から販売までをまかなう垂直統合は特殊なケースに限られます。ほとんどの企業は何かに専門化することで競争力を確保しますが、それは状況に応じて見直す必要があります。

日本に比べアメリカでは企業の入れ替わりが激しく、絶えず新しいビジネスモデルが生まれています。その結果分業のオプションも進化しています。極端な例かも知れませんが、ここ数年では無在庫販売(ドロップシップ)が流行しています。顧客からの注文をウェブサイトで受けて、第三者の倉庫から商品が直接顧客に発送されます。ウェブサイト自体もShopifyなどのサービスを利用し、商品の供給はAliExpressなどのフルフィルメントサービスを利用します。この場合にドロップシップをするビジネスの価値は顧客接点を作ることです。季節やSNS上のトレンドや顧客セグメントに注意を払い、魅力的なストーリーや品ぞろえで顧客を惹きつけます。無在庫販売にもいろいろな収益モデルがあります。例えば品揃えのために第三者の商品を展示しつつ、収益性の高い自社商品に顧客を誘導するなどの戦略が考えられます。

いくつか業界における分業の例を見てみましょう。

アパレル

商品企画・ブランディング・小売りは自社で統合し、生産はアウトソース。伝統的にアパレルは生産・卸・小売の分業で成り立っていたが、消費者の好みを商品に素早く反映させるために部分的垂直統合が優位になった。ユニクロやH&Mなどファストファッションと呼ばれる業態はこれを採用している。日本ではSPAと呼ばれる。

家電

自社は商品企画とブランディングに集中しモノづくりはやらない。製造をアウトソース(OEM)するだけではなく、デザインも含めてアウトソース(ODM)する場合もある。家電の場合はサプライヤーがデザイン力・技術力を持っているケースが多いため。

ゲーム・映画・テーマパークなどエンターテイメント

アイデア(キャラクターやストーリーなどの知的資産)は自社で保持し、コンテンツプロダクションは社外。

分業の方針は、前回取り上げた競争優位性の理解と密接に関連しています。基本的に競争優位に貢献する部分は自社でまかない、しそれ以外はアウトソースした方が、経営のフォーカスが分かりやすくなります。その結果、経営の意思決定スピードや社員のモチベーション向上も期待できます。これはコストや品質以上に大切な貢献になり得ます。適切なフォーカスはポジティブフィードバックを生み、競争力をさらに向上させます。

もちろんアウトソースはベンダー丸投げを意味しません。委託先を管理するノウハウが社内に必要になってきます。例えばアップルやIKEAは生産を完全に外注化していますが、生産のノウハウを持った社員を抱えて委託先を厳格に管理しています。アップル現CEOのティム・クックがSVP Operationsだった時代に乱立していた委託先を精選しノウハウを伝授して育成したのは有名な話です。

分業を進める場合には、委託先の探索、RFI/RFPの作成、契約、SLA(サービス水準合意書)の作成、委託先インセンティブの設計、および継続的なモニタリングなどのノウハウが必要になります。業務プロセス面では、切り出した業務と自社に残す業務の接点の明確化、従業員のトレーニングなどが大切になります。こうした点においては社内での経験の蓄積が成功のカギを握ります。先手を打って検討に着手されることをお勧めします。USJPでも外注化検討や実行のご支援を提供しています。