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(20) デジタル人材をどう育成するか

AIによって人間の仕事が奪われるというニュースを見ない日はありません。AIに置き換われる働き手は自分の仕事はあと何年あるだろうかと心配し、雇用主は今すぐAIに置き換えられる仕事はないかと考えているのではないでしょうか。 

しかしAIがある日突然に人間を置き換えるということはないでしょう。人間が日々の仕事の一部をAIに任せるあるいはAIを使って作業する、そうしながら人間とAIがチームになる形でビジネスの世界に入り込んでくると思われます。これは人間にとって学びの過程です。AIの役割は次第に大きくなるでしょうが、今の法制度ではAIは法的な責任をとることができません。例えばAIが操縦する車が事故を起こした場合、その責任はAIを作った企業の責任者が持つことになります。ビジネスでAIを利用する場合にも、AIの作成物や助言の根拠となるデータの健全性やアルゴリズムの品質や倫理的な判断は人間が行う必要があります。これには多くの知識と経験が必要でしょう。 

AIを使いこなすには新しいスキル、いわゆるデジタル人材が必要と言われます。デジタル人材に期待されるスキルはAIの専門知識に加えて、AIを使った新しい仕事のやり方を作れる人ではないでしょうか。仕事のやり方には受け継ぐものもある一方で時代に合わせて改変するものが出てきます。人間とAIがチームになった仕事のやり方は今までとは大きく違ったものになるでしょう。 

日系企業では伝統的に、情報技術(IT)の開発や運用は外部の専門家にアウトソースする傾向がありました。現行の業務プロセスを自動化するだけであればそれでことが足りました。しかし今求められているのは、テクノロジーの変化に応じて仕事を柔軟に変えていく能力です。それは企業の優先順位を理解し、変革の成果に応じて成果を享受する内部のリソースにしか期待できません。AI時代の競争優位性を左右するのは人材です。すでにデジタル人材をめぐる争奪戦が始まっています。

 デジタル人材を獲得または育成するために必要なことは、すでに多くの先進企業がベストプラクティスとして発信しています。よく言われるのは、社員の自主性の尊重、チームワーク育成、専門的教育への投資、社外コミュニティとのネットワーキング、新しいことを受け入れる組織カルチャー、否定派を抑える経営トップの姿勢、などです。 

中でも日系企業にとって重要と思われるのは、デジタル人材を企業に欠かせない専門職として公式なキャリアパスを用意することと、社外コミュニティとのネットワーキングです。米国ではホワイトカラーは職種(ジョブ)の専門家としてスキルをつけることでキャリアアップを図ります。それら専門家の能力を引き出す経営陣にも専門的な知識が要求されます。経営者自ら技術に関心を示し学ぶことがデジタル人材を惹きつけることになるでしょう。またデジタル技術にはオープンソースが多くあり、企業組織を超えたコミュニティを通じて発展します。デジタル人材にはそうした社外活動の時間が必要です。社員にそういう自由を許すことで、自分の会社の枠に閉じこもりがちな日系企業にはブレークスルーが起きるかも知れません。