(2) コンセンサス経営からの脱却
先行きが不透明な VUCA 時代に生き延びるためには継続的な自己変革が必要です。そのために考え方のフレーム(枠)と多元的な世界観を持つことが役に立ちます。
アメリカ企業と比べて日本企業のユニークな点として挙げられるのはどんなことでしょうか。ピーター・ドラッカーが50 年前の 1971 年に次のような指摘をしています。
■ コンセンサスに基づく意思決定
■ 年功序列と雇用の保証(ただし男性・正社員に限る)
■ 社員の継続的教育
■ 人事部によるジョブアサイン、ローテーション
■ ジェネラリスト重視
これらは日本の大企業・老舗企業であれば今でも当てはまるところがあると思います。当時のアメリカでは、行き過ぎた専門化と個人主義による社内分断、変化に対する現場の抵抗、労使対立、高コストで硬直した雇用環境、などが経営者の共通の悩みでした。一方で目覚ましい経済発展を遂げる日本は、恐れられるとともに尊敬され研究の対象でした。上記のような特徴は日本企業の強みとして認識されていました。
こうした日本企業の特徴が本当に強みであるかどうかについては意見が分かれると思います。バブル崩壊後の「失われた 30 年」を経て、むしろその弊害が指摘されてきました。例えばコンセンサスの重視は意思決定を遅くし、年功序列は若手のやる気を削ぎ、強い人事部はキャリア形成における会社依存を強めて個人の自立をさまたげる、等々です。
しかし日米の外面的な違いよりは、どちらにも共通する経営者の「狙い」に遡って考えることが重要です。それはドラッカーによれば次の3つです。
■ 正しい意思決定をすること
■ 雇用の安定と、効率性・柔軟性・変化への対応などのバランスをとること
■ 次世代のマネジメント層を育てること
日本型経営方式もアメリカ型にも一長一短があります。どちらがより有効であるか、また現実的かは、それぞれの企業の置かれた環境、つまり歴史や文化や競争によって異なります。50 年前に作られた日本企業の「特徴」はその時代の環境に適合していたから生き残り、洗練されてきたのでしょう。環境が変われば企業のあり方も当然変える必要があります。そのためには「一長一短」の中身をブレークダウンし、狙いと環境と経営方式の3つの整合性が取れているかを吟味する作業が必要になります。
日系現地法人はまさにこの課題の最前線にいると思います。ここから日本企業の新たな強みが生み出されることを願っています。