(19) 本格化するAIのビジネス利用
日本では岸田首相が2022年の所信表明演説でリスキリング(Re-skilling、スキルの学び直し)について触れ、5年で1兆円の投資をすると発表して話題になりました。デジタル最近、IBMが顧客と直接関わらないいわゆるバックオフィス業務の採用削減を発表して話題になりました。バックオフィス業務の30%はすでにAIで代替可能であり、7300人相当の採用を停止するとのことです。具体的な職種の詳細は知られていませんが、人事・経理・ITなどが想定できます。またコンサルティング会社のマッキンゼーの調査によれば、将来AIによって作られる経済価値は年間2.6兆ドルから4.4兆ドルであり、これは英国規模の経済が追加されるに等しいとのことです。もっともこれは予想最大値で、実現するとしても数十年先の話です。とは言えAIのビジネス利用はこの先10年以内に倍々ゲーム的に進むだろうと予測されています。
最近注目を浴びているのが生成AI (generative AI) と呼ばれているものです。それまで主流であった認知判断をするAI (cognitive AI) がオペレーションの自動化・スマート化に使われているのに対し、生成AIは画像や文章を生成したり人間と対話をするようになりました。
生成AIを利用できる業務としては、セールス&マーケティング、顧客サービス、人事・経理、ソフトウェア開発、研究開発などが挙げられます。具体的には、Eメールや動画などのコンテンツ作成、顧客・従業員・サプライヤーからの問い合わせ対応、財務レポート作成、採用活動、コーディングとテスト、新製品やパーツの設計、などが考えられます。
生成AIの普及によってAIの利用者が、データ分析や計画作成を担当する限られた知的労働者から、企業のトップや現場の作業者を含む全社員に拡大しています。日常言語を使ってAIに指示を出したりAIからの助言を受けることができるようになると、AIがコンシェルジュのようになって人間と他のコンピューターとの間を繋いでくれます。例えば経営者が膨大な報告書から気になる点だけをAIに抽出させたり、倉庫作業者がアイテムの場所や入荷予定を言葉を使ってAIに問い合わせたりすることができます。
こうした動きは欧米の大企業が先行しています。AIの開発拠点の多くは欧米にあり、AIのトレーニングに利用できるデジタルコンテンツも英語が他の言語を大きく引き離しています。予算とデータと人材が豊富にある大企業間の競争はさらに激化すると予想されます。一方でテクノロジーの進化は意欲を持つ企業にも逆転のチャンスをもたらします。AIの動向をうかがうだけではなく、他社よりも速く試行錯誤を開始し競争優位性を作っていくことが重要と思います。
ここ数十年の間に日系企業の労働生産性が低迷し、国民の平均所得がトップ集団から大きく引き離されてしまいました。従業員への投資も日本は先進国の中で低い水準にいるようです。AI利用の波をうまくつかんで日系企業が飛躍することを期待していますが、そのためには従業員のスキルアップが緊急の課題です。これについて次回以降解説します。